鳥

気候が良くなってきました。在宅勤務の体の鈍りを解消しようと、早朝、「アリスの小径(こみち)」と名付けられた川べりの小道に散歩に出かけています。

「アリス」はあの兎を追っかけ、不思議の国に行く「アリス」ではなく、京都大覚寺の北西の山腹に端を発する小さな川で、名前を「有栖川(ありすがわ)」といいます。京都には「有栖川宮」という貴家もあったので、なんだか、高貴なネーミングのような気がします。

小さな川ではありますが、川べりには桜の並木があり、緑に覆われています。西を向いて歩くと愛宕山が真向かいに一望できたりします。

その川で、先日「カモの親子」を発見しました。お母さんが7匹のコガモを連れて泳いでいました。ちょこちょこしながら流れを下っていく子どもたち。遅れそうな子供を気遣って見守る母親の姿。一時、現実を忘れさせるようないとおしい光景でした。

水は澄んでいますが、川幅10メートルほどの浅い川なので、アオサギ、シラサギ、カモ・・・などが、羽を休めたり、エサを探したりしています。それを眺めながら散歩できるのも魅力です。

ちょうど今週は「愛鳥週間(5月10日~5月16日)」です。今年は、愛鳥週間にまつわる催しは、自粛のために開催されないのかもしれませんが、鳥たちはそんなことにお構いなく、さわやかな気候に誘われるように、生き生きと集ってきています。そういえば、川面を素早く飛んでいく「ツバメ」の姿も多く見られるようになりました。

ということで、今日は「」という字にまつわる漢字の紹介です。

鳥

鳥/甲骨3300年前

ふるとり・篆文

隹/篆文2200年前

最初の「」という字は、本物の鳥をそのまま象った印象的な文字でした。まるで鶏が鳴いている姿のようなこの字を書くのは大変だったのか、省略した形の字もできました。それが、今私たちが「ふるとり」と呼んでいる「(すい)」という字です。「隹」も鳥の姿からできています。

「隹」はいろいろな字の中にパーツとして入り込んでいます。「集」・「誰」・「進」・「推」・「難」・「雇」等など。

では、次の文章にいくつ「」の付く字が入っているでしょうか。答えは本記事の最後に記します。
*「すすむのも、あつまるのも、いまはむずかしい。いのちをうばわれないように、あせらず、ただ、がまん。」

 

さて、有栖川に舞い降りたアオサギが水面から羽を広げて飛び立とうとします。

てき・金文

てき/金文3000年前

躍・篆文

躍/篆文2200年前

その鳥の羽ばたく姿が文字になっています。(第70回ラジオでも紹介しました。
「羽」という字と「(ふるとり)(ふるとり)」とを上下に組み合わせた字=てき(てき)です。今は、「羽」の形がカタカナの「ヨ」二つになっています。単独で用いるより、漢字の一部分(パーツ)として用いられることが多い字です。

「活躍」という時の「躍(躍)」の字の右側です。その下に「ふるとり」があります。羽を羽ばたかせて空に飛び上がろうとする鳥の姿です。その羽ばたきの力強さが「足へん」に「てき」と書く「躍(躍)」です。「跳躍」・「躍動感」などの「躍」こそ、鳥の力強い羽ばたきを表す字です。

濯・古文

濯/古文 約2700年前

曜

曜/古代文字なし

その鳥が、水鳥なら足で水面を蹴って力強く飛び立ちます。その字が「洗濯」という時の「」です。「氵」と「てき」との組み合わせ。今は、「(すす)ぐ」と使います。水鳥が、水しぶきをあげて飛び立つ姿から生まれた字です。

てき」にはパワーがあります。そのパワーが太陽の輝きを表す「日」の中に入ると、「曜日」の「」になります。日曜から土曜日までの毎日が、まばゆい光を浴びて飛び立つ鳥のように、輝きつづけてほしいとの願いが込められているような気がしてきます。

「跳躍」の「」、洗濯の「」、曜日の「」。どの字にも力が潜んでいます。鳥が羽ばたくときのエネルギーそのものが込められた漢字です。古代の人々は、漢字の中に魂を込め、それが現実になることを願って作っていたのかもしれません。そんなことを感じさせる漢字たちです、

そんな漢字のもとになった鳥たちの羽ばたきを見るために、近くの川辺を散歩してはどうでしょうか。密にならないよう気をつけながら、天気の良い日に、河川敷などへ出かけてみてください。

さて、今はまだ、辛抱しなければならない日々が続きますが、こんな時でも、古代の人々が「曜日」の「曜」という字に込めた力を信じて、前を向いていきたいです。いずれ離陸するときに、助走の期間にためたパワーが一気に花開くよう、焦らず過ごせていけたらと願っています。

 

*本文中の「隹」の付く字の入っている文章の答えです。
むのも、まるのも、今はしい。命をわれないように、らず、、我慢。」

放送日:2020年5月11日