石・甲骨

今回もラジオのメッセージテーマ「石・岩」に便乗します。

石・甲骨

石/甲骨3300年前

石・金文

石/金文3000年前

現代の私たちは、「」のことを、その辺に転がっている「小さな石っころ」のように思いますが、古代中国の人々はもっと大きな「石」のイメージでとらえていたようです。

山やその周辺にある巨石(岩)、奇石(岩)は、大木に神様が降りて来られるのと同じように、神様が降りて来られる聖なる場所(聖所)だと考えられていました。

ですから、そういう大きな石(岩)の前に(ほこら)を作って神様をお(まつ)りしました。願いごとを入れた器=口( 口・篆文さい)を供え、神への祈りをささげたのです。その祈りの場を表す字が「石」という字です。

石は厂(がん)と口との組み合わせからできた字です。「厂(がん)」は絶壁のようになった大きな石(岩)。口は 口・篆文(さい)です。「石」に口があるのは願いごとを入れた器を大きな石(岩)の前に置いているからです。その古代中国の神への信仰は、はるか東の日本にも伝えられ、今も大きな石(岩)をご神体とした「聖所」が全国各地に見られます。

もともと、石は大きな石、岩は山にある大きな石を言いましたが、いつのまにか、現代のように、小さいものが石、大きいものが岩という使い方へと変化していきました。変遷はありましたが、石・岩は神様ととても関わりの深い字です。

玉・甲骨

玉/甲骨3300年前

さて、古代中国にも宝の石=宝石がありました。それが「」です。玉は円盤状の形をして、中心が丸くくり抜かれて加工された宝石です。材料は翡翠(ひすい)(軟玉)を中心としていました。玉という字は三つの円盤状の玉を紐で結び、貫いた形からできた字です。古代の人々は、硬くて光沢のある玉には神の力が宿ると考えていました。身につけると玉が発するパワーで生命力が増すと考えていました。ですから、三つにつないだ玉を腰のあたりに吊るして、お守りにしていたと言われています。

壁・金文

璧/金文3000年前

陽・金文

陽/金文3000年前

ちなみに、一部のゆがみもない完全な円い玉を「完璧」と言います。「」は「辟」の下に「玉」を書きます。また、「玉」は生命力を発する力の源だということで、「太陽」の「」の中にもあります。古代文字の中の目玉のような形が「玉」です。玉を台の上に置き、(玉の写真参照)そこに太陽の光が当たって、パワーを四方に発散している様子が描かれています。

理・篆文

理/篆文3000年前

最後に、「王(玉)へん」のついた字を一つ。論理というときの「」です。「理」は玉を磨いてきれいな筋目を出すことを表した字です。筋目が整然と見えることから、筋をはっきりさせて物を言うとか、整えるといった意味を表す字となりました。論理の「理」も宝石の玉から生まれた漢字でした。

以前見た中国の博物館には古代中国で使われた「玉」を円盤状に加工し、円くくり抜く道具(今の旋盤のようなもの)が展示されていました。はるか昔の人々は手仕事ですから、「玉」を円盤状に加工することも容易くはなかったはずです。大変な労力をかけて加工されたからこそ、光り輝く価値をもつ「玉」に生まれ変わったのでした。古代の人にあやかって小さな玉をお守り替わりに身につけてみたいものです。

玉洛陽博物館

玉/洛陽博物館 所蔵

放送日:2021年6月28日