コロナ感染の話題に時間を取られている間にも、自然は確実に季節の歩みを進めています。京都の西、嵯峨野周辺の稲田は実りの季節を迎えていました。(HPのトップ写真参照)
米/甲骨3300年前 |
米/篆文2200年前 |
「米」という字は稲(穀物)の穂に実がついている形から生まれた字です。最初の文字(甲骨)は、斜めの短い線の上下に3つの小さな点が平行に描かれています。斜めの線が稲穂を、小さな点がみのった実の形です。稲の穂が実った姿をよく表しています。その絵のような字から1000年の時間が経過すると現代の字とほぼ同じようになりました。(右側、篆文)
「米」は日本では「コメ」を表しますが、中国ではコメだけでなく穀物全般を表すこともあります。ですから、古い時代の「米」は粟や黍を含めた穀物全般を指すと考えておいた方がよさそうです。
毎年豊かな実りをもたらしてくれる「米(穀物)」は、今も私たちのパワーの源ですが、古代の人々も同じ考えを持っていました。そのことを教えてくれる字があります。それが「気」です。
气/金文3000年前 |
氣/篆文2200年前 |
古代の人々は「生命の源」は「気」の中にあると考えていました。元気もやる気も勇気も気力も、時には病気も、「気」の力によると考えていました。その「気」を養うのがパワーの源「米(穀物)」でした。ですから、古い文字では、真ん中に「米」を入れて「氣」と書きました。米(穀物)が「氣」のパワーをアップさせるエネルギー源だったからです。そんな「気」の成り立ちですから、「米」が気の真ん中にあるのは大事なのです。でも、今は「メ」となってしまったために、古代の人々の「氣」に込めた思いもわからなくなってしまいました。(残念!)
利/甲骨3300年前 |
さて、(話を稲の稔りに戻します。)稲が稔ると稲刈りが行われます。実った稲は、鋭い刃物(石刀等)で刈り取りました。「利益」というときの「利」の文字がそれを教えてくれます。「禾(穀物)」と「刂(刀)」の組み合わせ。「利」は「鋭利」という意味と、収穫を得るということから「利得・利益」の意味を持つ字となりました。
刈り取りの作業が済むと脱穀です。脱穀したコメを表す字が3つあります。
精/篆文2200年前 |
1つ目が、「米へん」と「青」を組み合わせた「精」です。「精米」と使います。「青」が持つ「清さ、美しさ」の意味からきています。精米したコメは一粒一粒きれいです。
康/金文3000年前 |
2つ目が、健康の「康」です。古い文字を見ると両手( )で杵( )を持ってお米( )をついている形からできた字だとわかります。「糠」のもとの字です。この字も精米をしている字です。(上記の金文の は糠が散っている様子かもしれません。)もみ殻の付いた米から不純物(もみ殻や糠)を取り去って清らかにするのが「康」なら、身体から不純物(悪いもの)を取り去った状態を「健康」というのもうなずけます。
唐/金文3000年前 |
3つ目です。「康」の字に似た字で、中国の王朝名で用いる「とう=唐」という字です。「唐」の上の部分は「康」の上の部分と同じ=杵を両手で持ち上げている形です。下に「願い事を入れた器=口(さい)」があります。「口(さい)」があるということで、もとは、神に供える米を精白する意味だったと言われています。
今回は、実りを迎えたお米が刈り取られて精米されるまでの字を紹介しました。本格的な稲刈りシーズンはこれからです。次回も引き続き実りの季節に関わる漢字を取り上げます。
放送日:2021年9月13日
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