(粹・粋 篆文2200年前)
前回は、「お米の話」をしました。収穫したお米を脱穀して、きれいに精米したお米を表す字を3つ(「精米」の「精」。「健康」の「康」そして、「唐の国」の「唐」)紹介しましたが、実はもう一つあります。今日はその漢字から始めます。
「米へん」と「卒」(今は卆と書きます。卆に「すい」の音があります。酔)とを組み合わせた「粹(粋)」。純粋の「粋」です。糠をとってきれいになった米のことを言います。「純」にも「まじらない」という意味があり、二つ合わせて「純粋」=「まじりけのないこと」をいいます。
酒/甲骨3300年前 |
配/甲骨3300年前 |
精米されたお米=新米は、人々の腹を満たしたでしょうが、お酒造りにも使われました。
漢字を生み出した商(殷)の国の人々は、お酒が好きでした。というより、神さまがお酒を好まれたのです。そのおさがりで、酒が振る舞われました。しかも、商の国では一年中何かしらの祭りを行うことで国を統治する政治=祭政一致でしたから、その消費量は半端なかったと思われます。2800年ほど前の「詩経」という詩集に「豊年にして黍多く稲多し……酒を作り、甘酒を作って、祖先の霊に捧げ、以て丁重に礼を尽くした」(周頌・豊年)と書かれています。米や黍を使って酒や甘酒を作っていたことがわかります。
酒は「氵」と「酉」との組み合わせです。「酉」は写真のように大きな口を持ち、底がすぼまった甕の形の器でした。その中で、酒は醸造されたのです。祖先の霊に捧げられた酒は、祭りの後人々に振る舞われました。酒樽(酉)の前で、ひざまずく人の姿(己)を表わした漢字は、「くばる」というときの「配」になりました。「配」の旁は、今は「己」と書きます。もともとは「人がひざまずく形」でしたので、なんとなく「己」もひざまずいた姿に見えませんか。
香/篆文2200年前 |
黍/甲骨3300年前 |
さて、古代の人々がどんな酒を飲んでいたのか、興味のあるところですが、おそらく現在の「どぶろく」や「甘酒(醴)」のような酒が主流だったかもしれません。ただ、「清酒」もありましたし、酒に「ウコン」等で匂いをつけた黄色い色をした酒もあったようです。神様は、穀物や酒が醸しだすいい香りを好まれたようです。「香」という字は、「禾」と「曰」との組み合わせからできた字です。「禾」は黍などの香りのよい穀物。「曰」は願い事を入れた器を表します。「禾」と「曰」を神様に捧げ、かんばしい香りで神様の心を動かし、祈りを聞いてもらおうとしたのかもしれません。
鬱/篆文2200年前 |
いい香りをつけた匂い酒を「鬯酒」と言いました。「鬯」は難しい字なので、今はほとんど使うことがありませんが、この「鬯」がパーツとして入っている漢字があります。それが、常用漢字で最も画数の多い(29画)「憂鬱」の「鬱」です。この字を書ける人は少ないかもしれませんが……。
「鬱」は、上側に木と木の間に「缶詰」の「缶」があります。薄暗い林の中に土で作った甕(缶)があります。その下に「冖」があり、その下の左側に酒に香り草をつけた「鬯」があり、右側に「彡」があります。「彡」は鬯のいい香りが立ち込めている様子を表します。甕の中にある匂い酒から立ち上がる香りが薄暗い場所に充満している、こもっていることを表します。充満している意味から「鬱蒼と生い茂る」という使い方を、薄暗い場所にこもっていることから重い気分になった時の「憂鬱」のような使い方がされるようになりました。本当は香り酒のいい匂いが立ち込めているのですから、もう少し前向きな意味で使ってやりたい字です。
「お米の話」から「お酒の話」になりました。新酒も実りの秋の贈り物ですから、今年もよい酒ができればと思います。願わくば、新酒ができるころにはお店で楽しめるようになりますように……。
放送日:2021年9月27日
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