(前回、第187回は久しぶりにスタジオに寄せてもらって、楽しい時間を過ごさせてもらいました。ナマで出会うよさを改めて感じました。ありがとうございました。)
さて、ここしばらく夏真っ盛りのはずなのに、豪雨と洪水のニュースが続きました。
21世紀の今も3000年以上前の古代中国の人々と同じように「水の害」に悩まされています。すでに何回も取り上げましたが、「災害」の「災」の字の上側は、水が「く」の字に曲がって激しい濁流となって流れている様子を表していると言われています。水は命を育む大切なものであると同時にひとたび暴れると人の営みのすべてを奪い去ってしまう恐ろしいものという意識が古代の人々にもあったようです。「水と火」が「わざわい」のもとであることを、3000年以上前に生まれた漢字が今も教えてくれています。
ところで、今日のテーマは「アイス」ということですので、漢字で便乗します。
![]() 氷 冰/金文 3000年前 |
![]() ![]() 氷 冰/篆文 2200年前 |
「アイス」といえば、「こおり」です。「こおり」という字は「水」の左上に「点」が一つついた「氷」です。この「点」は何か、古い文字(金文)を見ると水の横に一つではなく、二つ、小さな塊のようなものがあります。この塊こそが、水が固まった「氷」を表しています。
ですから、「氷」という字の「小さな塊」は本来二つあったのですが、現在の「氷」という字では、省略されて一つだけになってしまいました。
ですが、この二つの氷の塊(中には「氷の表面に、ひびわれたようにあらわれる筋目の形」という説もあります。)はそのまま残って「冫(ひょう、にすい)」という部首になりました。ですから、「こおり」は、「水」に「冫」をつけた「冰(ひょう、こおり)」とも書いていました。
本家本元の「こおり」を表す「冰」から「こおり」が一つ消えて、「氷」となってしまったのが今の「氷」という字ですが、「こおり」を表す「冫(二つの塊)」は、他の字の中にちゃんと残りました。
![]() 冷/篆文2200年前 |
![]() 凍/篆文2200年前 |
一つは部首としての「冫」がついた漢字の中にです。代表例は「冷」と「凍」。「冷」も「凍」も「冫」の字です。これらの字は、比較的新しく作られた字で、「冷」の右側の「令」が読みを、「凍」の右側の「東」も読みを担う役割でだけ使われた「形声」と呼ばれている字です。今は、「冷たい」「冷える」「冷める」と使う「冷」と「凍える」「凍る(冷えて固まる)」「凍てつく」と使う「凍」。二つ合わせて、冷えて凍てつく「冷凍」という言葉になりました。
![]() 寒/篆文2200年前 |
![]() 冬/篆文2200年前 |
もう一つは、部首ではない使われ方で漢字に入った例です。代表例は「寒」と「冬」です。字の中に点々が二つあります。これが、「氷」です。今は「点、点」と縦に二つ書きますが、旧字体は「」、「
」と「冫」を書いていました。「冷」も「凍」も「寒」も「冬」も「氷(アイス)」が中に入っている漢字です。さむいはずですね。
最後に、「氷」という字を使った熟語クイズです。
第1問:
「氷雨」と書いて冬に降る雨=「ひさめ」、「氷の山」と書いて「氷山」、「氷の河」と書いて「氷河」ですが、「氷の柱」と書くと、何のことを表しているでしょうか。(白川先生は「氷筍」とも言っておられます。)
第2問:
「氷花」と書くと何のことを表しているでしょうか。『字通』より
第3問:
「氷月」と書くと何のことを表しているでしょうか。『字通』より
全問正解なら、あなたは「氷(アイス)」マニアです。
暑すぎる夏。「アイス」で暑気払いなら、「氷」が入った漢字を思い浮かべて、頭の中を冷やすのも暑気払い。(にはなりませんかね)
【クイズ答え】
第1問:つらら 第2問:雪 第3問:冬
放送日:2022年8月8日
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