衣

先週「成人式」にまつわる「彦」の話をしました。その最後に赤ちゃんが生まれたときにも魔よけのために額にペインティングをして「初宮参り」をする風習があり、それが「出産」の「産」という字に残っていることを話しました。今回はその続きです。

赤ちゃんが生まれるということは、昔の人びとにとってもとても大切なことだったので、生まれた命を守るためにいろんな「魔よけ」や「おまじない」を行って無事に育つことを願いました。そうした魔よけやおまじないから生まれた漢字があります。

たとえば、女の子が生まれると貝で作った首飾りを赤ちゃんにかけて無事を祈ります。そこから貝という字を二つ並べ、その下に「女」という字を書くと小さな赤ちゃんを表す嬰児(えいじ)の「嬰」、「みどりご」を表す字となります。(今は男女問わず赤ちゃんをいう字ですが、最初は貝を身につけたのは女の赤ちゃんだったので、「女」が入っているのです。ちなみに男の子が生まれると宝石の玉を持たせました)。

嬰(嬰・篆文 2200年前)

今日はそんな例の中から「衣にまつわる漢字」の話をしたいと思います。

 

赤ちゃんが生まれるといろんなことが執り行われるのですが、最初に行われるのが赤ちゃんの産衣(うぶぎ)づくりの儀式です。

生まれたての赤ちゃんの命はかぼそいです。栄養事情の悪かった昔はなおさらです。そのか細い命を大切に守り、育てていくにはあらゆるものの力を借りる必要がありました。魔よけの力を借りたり、先祖の人たちの力を借りたり、さまざまな方法を行いました。

「初宮参り」のように一族の守り神である氏神様にお参りしてお願いするのもその一つです。一族に加わった新しい命の報告とともに、命を守る力を与えてもらおうと出かけたのです。

赤ちゃんの命を守る様々なおまじないの一つに産衣づくりがありました。古代中国の人びとは、衣には「人の魂(願い)を宿す力がある」と信じていたので、願いを産衣に託して命を守る「お守り」としたのです。というわけで、赤ちゃんが生まれて最初に行う産衣づくりはとても重要な赤ちゃんの「お守り」づくりの儀式でもありました。

そこで、その産衣づくりから生まれた字があります。

初(初・金文 3000年前)

「衣」を表す部分は「ころもへん」に代わっていますが、「衤(ころもへん)」に「刀」をそえた「初」という字です。生まれた赤ちゃんの産衣づくりは、まず布を刀(ナイフ、今ならハサミ)で()つところから始まります。儀式の中では産衣づくりのシンボルとして「布を刀で裁つ」ところが再現されたかもしれません。

赤ちゃんを守る衣づくりの中から「初」という字は生まれました。初という字が「はじめて」という意味を持つようになったのは、生まれて「はじめて」行う産衣づくりの「布を裁つ」儀式から生まれた字だったからです。

ですから、「初めて」というのは「願いを込めた」特別なことでした。今でも、年が替わるとすべてをリセットするかのように「初物づくし」の行事が並びます。「初詣」から始まって「初日の出、初荷、初売り、初釜 初天神・・・」。赤ちゃんの産衣に命を守る願いを込めたように、一年の初めに新たな願いを込めて「初~」の特別な日(行事)を用意しているのです。

放送日:2015年1月26日

古代文字

初(初・金文 3000年前)・・・初は衣と刀の組み合わせ

衣(衣・金文 3000年前)・・・衣は着物の襟元(えりもと)を表した字。

刀(刀・甲骨 3300年前)・・・刀は持ち手のある片刃のナイフのような形。