御香宮神社

近鉄「桃山御陵前」で下車して大手筋商店街に通ずる道に出る。坂道になったその道を商店街とは反対側に三分ほど登っていくと、歩道をふさぐように大きな灯篭があり、直ぐ脇に豊臣秀吉が築いた桃山城の大手門を移築したとされる立派な御香宮ごこうのみや神社の表門がある。

歴史の門をくぐり、境内に入ると両側に古風な石灯篭が並んでいる。奥行きのある神社である。真ん中に通路のある変わった拝殿をくぐると豪華に彩色された本殿があった。

灯篭の古風さと比べるとアンバランスな気もするが、桃山時代へと歴史を戻すなら、このくらいの絢爛(けんらん)さを漂わせても不思議ではないと思えた。

石碑はこの本殿のさらに奥にあった。鮮やかな本殿脇を進むと門が見える。御香宮の立派な表門から見れば貧弱な門であるが、裏門(北門)である。門の前の道は人通りも少なく おそらく地元の参詣者しか使わない出入り口である。そのひっそりとした門前にこの石碑は建っていた。思ったより大きくて、しっかりした彫りの篆書(てんしょ)体による陰刻の文字である。石碑の裏側に明治十四年六月九日と刻まれていた。この場所に建ってすでに百三十五年ほどの時間が流れている。

石碑に刻まれている「御」という字は人がひざまずいて神を拝む姿。「香」の字は古くは(きび)(えつ)との組み合わせ。神様に黍と願い事を入れた器(曰)を供え、神に祈る儀礼をいう。黍のこうばしい香り(古代文字では四つの横線で示されている)を神にすすめ、その力で願い事をかなえてもらえるようお祈りしたのである。香りのよいものといえば酒もある。この神社の名前は、境内に湧き出る水の香りのよさから「御香宮」と名づけられたともいう。香りのよい水から作られたこの地の酒を供えられた神様の霊験はあらたかに違いない。

「宮」という字の(りょ)の部分は、神社の建物を真上から見た形で二つの建物を表している。神社には神を拝む拝殿と神様のおられる本殿がつながるようにしてあることを示す。この神社の拝殿と本殿の配置は文字通りである。

帰ろうとしたら、いくつもペットボトルを持った地元の人がこの門をくぐって境内に入って行かれた。本殿脇にある名水「御香水」が目当てらしい。今も伏見の名水は健在である。

古代文字

御 (御・甲骨)

香 (香・篆文)

宮 (宮・甲骨)

神 (神・篆文)

社 (社・甲骨)

外部リンク