弓・甲骨(弓/甲骨) 矢・甲骨(矢/甲骨)

前回魔除けの力のある「桃の話」をしましたが、今回も魔をよける力のある「弓矢の話」をします。

いうまでもなく弓矢は人や動物を殺傷する力を持つ武器です。古代中国の人びとにとって、それは人を殺す「恐ろしい道具」であるとともに、邪悪なものを追い払うことのできる特別な力をもった「神聖な道具(お守りの道具)」でもありました。

ですから、魔除けの儀式やけがれをはらう清めの儀式、誓いをする時の儀式などに羽根飾りを付けた儀式用の弓矢を用いました。その飾り弓は実践用の弓と比べると弓力が「よわい」ということから「弱」という字が生まれました。弓の中にある「てんてん」が羽根飾りを表します。ちなみに実践用の弓のつるは天蚕(てぐす。テグスサンという蛾の糸から作った強い糸。釣糸の材料)で作られました。その弦がどの弦よりも強かったので、弓と虫を合わせて「強」という字ができました。

強弱という字に弓が入っているのは、こんな弓にまつわるルーツがあるからです。

強・篆文(強/篆文) 弱・篆文(弱/篆文)

さて、古代の中国では、王様(諸侯)たちが集まって国際会議を開くようなときには会議の前に必ず矢を射る儀式が行われました。会場の周辺に邪悪なものが入らないように魔除けをして清めたのです。「通し矢」です。京都の三十三間堂で正月に行われる「通し矢」の行事はその清めの長い伝統の名残です。中国の古い風習が、今も日本に残っているのです。

今も残っていると言えば、お宮参りに行くと縁起物として売られている「破魔矢はまや」があります。「破魔」は矢の的を表した「はま」という言葉の当て字ですが、魔を破る力を昔から矢が持っていたのですから、矢を使った由緒正しい魔除けと言えるかもしれません。(当然、飾り物ですから矢の先は鋭くとがっていません)

また、矢を使って結束を固める儀式も行われました。いくさに行く前に仲間が集まり、神前で「矢を折る」しぐさの儀式を行って結束を固めました。(古く、「矢」は「ちかう」という読みもありました)。

神前の前で矢を折るしぐさをして結束を固めた集団を「一族」といいました。「族」という字の中に矢があるのは、誓い合った仲間であることを示しているのです。

族・甲骨(族/甲骨)

さて、矢が悪いものをはらう力を最大限に発揮するのは、病気を治すときです。病気にかかると「悪い病気のもと」を体から追い出すための祈祷きとう(おまじない)が行われました。行う場所は「隠れた場所」で「矢」を病気の人の近くに置き、巫女さんが矢を棒でたたくようなしぐさをして病魔を追い払おうとしたのです。これが治療をするお医者さんの始まりでした。医は匚(はこがまえ、かくれた場所)と矢との組み合わせ。病気を治す医者の「医」に矢があるのは、矢に病魔を追い払う力があると漢字を生み出した人々が考えていたことからでした。

【ちなみに医の古い字体は醫と書きます。医の横のしゅは棒でたたくことを表し、下の酉は酒。病気を治すのに酒が使われたことを示します。酒は気付け薬としても、消毒薬としても使われました。さらに古い形に酉の代わりに巫女みこのあるがあります。古く巫女が医術にかかわったことを示しています】。

医・篆文(医/篆文) 醫・篆文(醫/篆文)

今回は「弓」「矢」が潜んでいる漢字、「強・弱、族、医」を扱いました。
次回(来週)も弓矢の話2を続けます。

放送日:2015年3月23日