先・甲骨
この古代文字はいったいなんという字かわかりますか。

上側にある足あとは「足あと」を表します。横から見た人の立ち姿の頭のところに 足あと(足あと)が乗っています。足あとを頭の代わりに乗せている人なのです。

この字のヒントは、産休明けで復帰された光部さんの苗字にあります。それは光部さんの「光」という字の作り方と一緒だからです。

光という字は人の頭に「火(Fire)」を掲げる人でした。人の頭に火を乗せて「火を司る人」を表しました。今の字で言えばカタカナの「ル」のような形をしているところが「儿(ひとあし)」と呼ばれて人の姿を表しています。今回の「足あと」を乗せた字も「儿(ひとあし)」がつく字なのです。

光・甲骨1(光・甲骨)    見・甲骨1  見・甲骨2 (見・甲骨)

こうした字の作り方には、他に「見る」という字があります。見るという字の古代文字は人の頭に大きな目が乗っているのです。大きな目を人の頭の代わりに書いて「見る」ことを強調しています。大事なことをクローズアップして強調するそういう漢字の作り方をしているのです。

そうすると、今回の漢字は人の上に「足あと」を乗せているのですから「あし」にかかわることを強調した字に違いない、しかも「儿(ひとあし)」のつく字です。ちなみに小学2年生で習う字ですが・・・。おわかりになりましたか。

答えは、「先頭を走る」というときの(せん)」「さき」という字です。「先生」という字にも使います。「前を行く人」、「先に歩く人」を指します。

それはどんな人だったのでしょうか。漢字を生み出した時代には、「前を行く人」はとても大切な役割を果たす人(たち)でした。

当時、王様が各地に視察に出かけるときとか、戦争のために軍隊を他国に派遣するときなど、自分たちの領土(住む場所)から離れて見知らぬ土地に出かけるときは、悪いものが邪魔をしないように必ず「先遣隊(さきがけ、露払いの人びと)」が先に出かけて災いが起こらないよう清めの儀式を行っていました。戦争の場合などは、偵察のために派遣する斥候(せっこう)・物見役の兵士もそうです。

そういう先遣隊の役目を果たす人々を「先」といったのです。だから、誰よりも早く行動して災いを防ぐ役割を果たすので、「あしあと」を頭の代わりに乗せて強調したのです。

その先遣隊の人びとが清めの儀式や物見を果たして一足先に帰ってきます。しかし、帰ってきた人たち自身が悪いものを足にくっつけて帰ってくる危険もあります。それは困るので、帰ってきて最初に行うことがあります。それが、足をあらうことでした。

足をあらって汚れをはらい、清めたのです。それで、「洗」という字にも「先」という字が入っているのです。先がけの「先」とあらうの「洗」はつながっているのです。

ところで、日本では「洗」を「あらう」と読みました。「あら」は「新井さん」という時の「(あら)」です。日本では洗うという行為は「新たにする」行為でもありました。中国では清めること、日本では新たにすること、中国の人も日本の人も「洗」という行為を似たようにとらえていたことがわかります。手足を清めることは新たにすることでもあるからです。

洗・篆文(洗・篆文)

※ 足あとは「足あと」の形。右端の上側に突き出た線が親指。足指は省略されて三本の線で表されます。下側の丸い部分はかかとのライン。この足は左足。

右足と左足の足あとをつけて前に進めば歩・甲骨。「あるく」の「歩」という字になる。

放送日:2015年4月20日