光・甲骨1

今日は、光部(こうべ)さんが産休前最後の放送ということなので、光部さんにちなんだ漢字を取り上げようと思います。※この回の放送日は2014年9月29日でした。

「光部」という苗字は珍しいですよね。「ひかり(光)」と「べ(部)」の「こうべ(光部)」は今までお目にかかったことがありませんでした。

その苗字に使われている「光」という字は3300年前の中国ですでに使われていました。現在の私たちは、太陽の光とか月の光とかいうように「明るく差し込む光の筋」、「目に明るさを感じさせるもの」、「人の心に明るさや希望を与えるもの」というような意味で使っていますが、漢字が生まれた頃の人々は違う意味合いで使っていました。

最も古い「光」という字を見るとわかるのですが、その字はひざまずいた人の頭の上に「火=fire」を乗せている形になっています。頭の上に火を捧げ持っている姿です。

光・甲骨1 ・ 光・甲骨2(光・甲骨文字/3300年前)

この形で何を表しているのか、この人は実は「火」を大切に守っている人なのです。

「火」は人々にとってなくてはならないものでした。煮炊きをするにも、暖を取るにも、夜の闇から人を守るためにも、その火が消えたら命の危険にさらされる、そのくらい貴重で大切なものでした。時に激しい落雷によって「火」がもたらされることもありました、人々は恐れとともに神聖な神からの贈り物として大切にその火を守ったのです。

だからこそ、その大切な火を守ることを仕事にする人々がいたのです。その人々を「(コウ)」と呼びました。頭の上に火を乗せているのはその仕事をシンボリックに示している、そういう字なのです。現在の「光」という字も、上側の「たてちょんちょん」が炎を、下側は「ひとあし」といってちゃんと「人」がいる形になっています。

日本ではそうした専門集団を「()」と呼びました。「物部(もののべ)」、「織部(おりべ)」、「卜部(うらべ)」・・・とすれば、「光部」とは火を守る専門集団だったと思われるのです。大和朝廷時代の日本では、火祭りを主宰する一族、あるいは火を扱う、例えば台所を守るような役割を担っていた集団だったかもしれませんが、間違いなく「火」に携わる一族であったと思われます。

光部さんのご先祖様がどうだったのか、これだけではわかりませんが、「光」にまつわる字の起源をこんなに直接表す苗字に出会えるなんてめったにないので、大切に守っていっていただきたいですね。

 

さて、名前の「愛」です。愛も味わい深い字です。

愛という字には、真ん中に「心」という字が入っているので、ある心の状態を表します。ふつうは、「愛」といえば人を大切に(大切に)思う心、いとおしむ心をいいます。でも、「愛」という字が生まれた頃の意味は少し違いました。これも、古い愛という文字を見るとわかるのですが、人が後ろを振り向いてたたずんでいる姿を表しています。

愛・金文(愛・金文/3000年前。顔が後ろを向いています)

今大切な人のもとから立ち去ろうとしています。本当はもっともっとその人と一緒にいたいのに、立ち去らなければならない、その立ち去りがたい心の動きを示しています。

「後ろ髪をひかれるような思い」、それが「愛」という字の意味でした。本当はもっと会っていたいのに、さよならしなくちゃいけない、立ち去ろうとして後ろに心がひかれる、そのせつない思いを「愛」と呼んだのでした。

恋がストレートに「人に惹かれる心」だとしたら、愛はずいぶん大人の心、微妙な心の様子を表している字なのです。立ち去ろうとして後ろに心がひかれる、去りがたい気持ちになるということは、実はそのものを本当に大切に思っていること、いとおしんでいるから生まれる感情です。

現在の「愛」はその大切にしている、いとおしんでいる気持ちのほうにウエイトを置いた意味となっていますが、去りがたい感情とはコインの表と裏のような関係なのです。去りがたい思い、別れがたい思いを抱いたら、それが「愛」です。

光部さんとは、お声だけでの出会いでしたが、本物の愛さんも、きっと名前のように「人に去りがたい思いを感じさせる人、愛のある人」だと思っております。ラジオから流れる声とか会話のやわらかさの中にそれを感じていましたから。

どうか、お休みの間も「光と愛」をいっぱいふりまいて、出産、そして子育てをして下さい。またお声を聞けることを楽しみにしております。

放送日:2014年9月29日

古代文字

光・甲骨1 部・古代文字 愛・金文

(古代文字で、光部愛)