今年も灼けつくような夏の「ひざし」を浴びる季節がやってきました。
「ひざし」という字の「ひ」を漢字で書くとしたらどのように書くでしょうか。日光の「日」でしょうか、それとも、太陽の「陽」でしょうか。
答えは両方とも可です。「日差し、日ざし」と書いても「陽射し、陽ざし」と書いてもかまいません。(両方を使い分けるという方もおられるかもしれませんが・・・)
今回はその「日」と「陽」にまつわる成り立ちの話をしたいと思います。
さて、空に浮かぶ「お日様」=「太陽」を表す漢字はどちらでしょうか。
いうまでもなく「日」の方です。古代文字を見ると、日は太陽の姿をかたどった象形文字だとわかります。丸まった囲みの中に一本横棒があります。横棒は太陽が空っぽではなく実体があることを示しています。空に浮かぶのは「お日様」です。
では、太陽の「陽」は何を表しているでしょうか。字は部首が「阝=こざとへん」、右側の旁が「昜」です。「阝」は神さまが天と地上を昇り降りされるはしご。それで「阝」は神様にまつわる字に使われます。
右側の旁の部分「昜」はなんでしょうか。古代文字を見ると台の上に黒点を付けた○(まる)が置かれ、下側には三本の斜めの線が描かれています。(現在の字の「昜」では、日の下の横一棒が台を表し、斜めの線は「勿」になっています)
この黒点をつけた○はお日様と同じ形をしていますが、お日様ではありません。これはお日様のような形をした玉という石です。占いに使う水晶玉のようなものです。古代代中国の人びとは堅くて光沢のある玉石には精気を養い、気力を充実させる強い力があると考えていました。玉を身体につけると玉の強いパワーが乗り移って身を守ってくれると信じていたようです。
そうしたパワーのある玉を台の上に置いて、神様にお願いして玉の持つ強いパワーを体に取り込んで精気や気力を充実させようとする儀式がありました。(神様にまつわる「阝」がある理由です)。
台の上の玉に光が差し込むと玉は輝きます。その輝きは四方に放射します。その神聖な光の筋を斜めの線で表しています。光がさしてまばゆいばかりに輝く玉から発するパワーを体に浴びて力をもらおうとしたのです。
その「陽」の輝く姿は「太陽」とそこから発する光そのものに見えたので、やがて「陽」は「ひ、太陽」を表す字となっていきます。が、もともとは玉という水晶玉のような丸い石が祭壇の上でひかり輝いている様子を表した字でした。
ですから、漢字の成り立ちからいうと太陽の「陽」はあとから太陽を表す字になった字なので「ひざし」は「日差し」と書くのが成り立ちをいかした書き方かもしれません。
さて、旁の「昜」を字の中に持つ漢字は他にもあります。
運動場や場所という時の「場」。玉を祭壇に置いて「玉のパワー」を取り込む儀式を行うまさにその土の上の場所を「場」といいました。場所の「場」は玉石を置いてお祈りする場所を表す字でした。
また、旁の「昜」がまばゆい光を発することから、太陽のまばゆい光の熱が水を温めるので「氵さんずい」をつけて「お湯」という字になりました。
他に思わぬ字にも使われています。けがをした時の「傷」という字です。旁の「昜」はまばゆい輝きを表す字なのに、なぜ「傷」という字の中に入っているのでしょうか。
「傷」という字の右側の「昜」という字の上に「(古代文字では)」というパーツがあります。これは「ふた」を表します。まばゆい光を放つ玉にふたをしてそのまばゆい光のパワーを封じ込めてしまう字なのです。「昜」の上に「ふた」をした状態は、心の暗い状態を示します。気力を充実させるパワーが失われたのです。それが「傷」です。「心に傷を負う、心に傷を受ける」といった時の「精神的ダメージ」を表す言葉が「傷」でした。
外から受けた傷=外傷は「疾」という字がありました。「疾病」という時の「疾」は、古代文字を見ると「矢が脇に刺さった人の姿」で表されています。これこそ外傷です。時代が下る中で「傷」という字も「外から受けた傷」を表わす字となっていったのです。
放送日:2015年7月20日
お知らせ
これまでエフエム世田谷の『アフタヌーンパラダイス』への出演は不定期でしたが、8月より「ゴット先生の漢字成り立ち教室」は毎月2回、第2・第4月曜日となりました。ぜひ聞いてみてください。
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