京都の西、太秦の地にある広隆寺の上宮王院太子殿(本堂)の軒下に掲げられている絵馬である。「大乗日本」の力強い文字が古代文字ではないので、一見、見落としてしまいそうになるが、その字の左横に添えられている小さい字が古代文字( 篆文体)である。
篆文体は「太子曰(く)」の後「日域大乗相應(応)之地」と書かれている。
訳:「(聖徳)太子がおっしゃるには、日本は大乗(本当の仏法のこと)を学ぶにふさわしい場所である」。
まさに「大乗日本」である。「大乗」とは「大乗仏教」のこと。修行を積んだ一部の人しか救われない小さな入れ物としての仏教 (小乗)ではなく、あらゆる人々を救うための大きな入れ物としての仏教をいう。
古代文字の「成り立ち」。太子曰くの「曰」。古代文字には (サイ、願い事を入れた器)の上に (かぎ)型の線がある。願い事を入れた器が開けられていることを示す。(サイ)のふたが開くと、神の声が聞こえる、神がおっしゃるという意味になり、「のたまは(わ)く」となる。
「日域」は「じちいき・じついき」とも 読む。「日域」とは「日本」の別称。「域」の古代文字は、城壁(口)を巡らし、武装(戈)して守る領域を指す。
「大」は人が両腕を拡げて立つ様子。「乗」は甲骨文字では人が木の上にのっている姿。乗っているのは見張り役。
「相應(応)」とは互いに応えあうこと、ふさわしいという意味。「相」は人が遠くの木を眺めてその生命力を自分に取り込むことであり、同時に木が生命力を取り込ませて見る者を「たすける」ことでもある。それで、「たがいにする、たがいに、あい」の意味となる。「応」は「應」。は人の胸に隹を抱いている形で、鷹狩の意味。古く鷹狩によって神意を問う占いの方法があった。応に「こたえる」の意味があるのは、神意を尋ねるのに対して神が応答するからである。
「之」は助詞「の」を表す。「地」の初字は「墜」。神が天から降りてこられる場所を示す。
聖徳太子信仰の寺、太秦広隆寺を訪ねる機会があれば、是非参道沿いにある太子殿のこの「絵馬」にも目を止めてもらえるとうれしい。
(太・篆文) |
(子・金文) |
(曰・金文) |
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(日・金文) |
(域・金文) |
(大・甲骨) |
(乗・金文) |
(相・甲骨) |
(應・甲骨) |
(之・金文) |
(地・篆文) |
参考
- 「子」の文字は游月の栗子餅でも紹介しています。
- (サイ)にまつわる話(ラジオ第25回「口を頭にのせる人」)
- 「日」の成り立ちについて(ラジオ第29回「日と陽」)
- 鳥占いにまつわる話(ラジオ第30回「故郷へ帰る鳥」)
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