八坂神社

鴨川を渡って四条通りを東へ歩くと突き当たりにあざやかな朱色の門が見えてくる。八坂神社の西楼門である。門前の石段を登って境内へ入り、木陰の参道を曲がると黒い建物が右手に 見える。その入り口にこの表札は架かっている。社務所といえば古くて小さな木造の建物を想像させるが、意外にもこの社務所は真新しい立派な会館である。

ガラス戸の入り口にはしめ縄が張られ御幣ごへいも飾られてはいるが、ドアは自動で今風である。なんともアンバランスな社務所である。そのアンバランスさが行きかう人の目に留まってもよいように思われるが、建物の反対側には有名な縁結びの神様の社があるので、人の目はおのずからそちらに注がれ、意外にこの表札は目に入っていないのかもしれない。

篆書(てんしょ)体で書かれたこの表札は味わいがある。神社の「神」の字の(つくり)「申」には、縦の直線をはさんで左右にギザギザがあるが、雷の稲光を表す。自然災害に困らされた古代中国の人々は、この世に人間の力を超えた何者かがおり、それが怒るとき災いが起こると信じていた。その恐ろしい力をもつ何者かを「神」と呼んだ。この世を支配する神は天におり、雷が鳴るとき恐ろしい稲光の姿となって正体を現すと考えた。その天空に光る稲光の姿を「申」という字に表した。「申」は「神」の初字である。のち神へのお供え物を置く台(テーブル)を表す「示」をつけて「神」 となった。

「神社」という字の右下にある二本線の印は、同じ字の繰り返しを省略した反復記号である。神社と社務所の「社」が重なったので用いられた。現代でも「々」とか「〃」と書くが、3000年前の青銅器に書かれた文字(金文)にも、この二本線の反復記号が使われている。3000年来の正当な反復記号をさりげなく使っているのも味わいがある。

 

(以下、すべて金文)

hachi(八)  han(坂)  kami(神)  yashiro4(社)

mu(務)  syo(所)

 

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