暮・金文
いよいよ今年も押し迫ってきましたので、押し迫った時期にふさわしい「年の暮れ」の「暮れる」=「()という字を取り上げます。

「暮」という字の「成り立ち」は何だと思いますか。今の字は字形が変化しているのでわかりにくいのですが、古代文字が「成り立ち」を教えてくれます。「草」の形のものが上に二つ、下に二つあります。「草」は草を表します。古代文字は上に草が二つ、真ん中に丸いお日様があり、その下に草がまた二つある形です。草二つは二本ではなく、草がたくさんあることを示します。

暮・金文(莫・暮 金文3000年前)

暮・説文(莫・暮 説文2200年前)

たくさんの草と草の間に日(陽)があります。この場合は草と草との間=草原にまさに日(陽)が沈もうとしている風景を表しています。草原のかなたに沈んでいく夕日、いよいよ一年が終わるにふさわしい風景だと思いませんか。

ところで、上と下に草があって真ん中に沈む夕日があるとしたら、「暮れる」という字に日が二つあるのはおかしいと思いませんか。

実は「日が沈む」の意味は上側にある「(ばく)」(「砂漠」の「漠」という字の右側)という字で表されているのです。下側にあるもう一つの「日」は本来はいらないのです。

「莫」がもともとは「日が沈む、くれる」の意味でした。ところが、後に「莫」という字が別の意味(否定の意味、~なし)で使われたり、他の字を作るパーツとしても使われるようになったので、もう一つ下側に「日」をつけて、「日が沈む」ことだけを表す字を新たに作ったのです。それが「暮」という字でした。

「暮れる」のもとになった「(ばく)」は、「日が沈む」という意味から「ひぐれ、くらい、さびしい、静か」や「かくす、かくれる」等の意味を持つ字としていろいろな字をつくるパーツとなりました。

「莫」という字と「日」とを組み合わせて「暮」という字を作ったように、「莫」と「土」とを組み合わせて、「墓」(死んだ人を葬るさびしく暗い場所)ができました。

墓・説文(墓 説文2200年前)

「莫」と「(きん)=ぬの」とを組み合わせて物を隠す「幕」という字ができました。

幕・説文(幕 説文2200年前)

心に思いを隠して(秘めて)人を思うけなげな気持ちを「莫」と「心= したごころ」を組み合わせて、「慕う」の「()という字ができました。

慕・説文(慕 説文 2200年前)

暮・墓・幕・慕は、みな「莫」という字を基本字としたひとつながりの漢字です。

「暮れる」という字の「暮」は、草原のかなたにお日様が沈んでいく様子から生まれた字でした。日が暮れていくわけですから、ちょっぴり寂しい気分にさせる字です。ゆく年を惜しむ気持ちと重なります。

今年1年お付き合いをいただきありがとうございました。
来年は朝日の「朝」という字から始めたいと思います。
良いお年をお迎えください。

放送日:2015年12月28日