酉・金文

今年最初の「漢字成り立ち教室」は、「干支(えと)」の話から始めたいと思います。

ご存知のように「干支」は「十干(幹)」と「十二支(枝)」の組み合わせからなり、六十年で一回りする年の数え方です。今年は、干支で言えば「丁酉(ていゆう)(ひのととり)」の年に当たります。「甲子(こうし)(きのえね)」から始まった順番で言うと、60番中の34番目です。

「干支」を暦として使う歴史は古く、漢字が生まれた中国の殷という国ではすでに使われていました。3300年以上前のことです。当時は「年」という単位ではなく「日にち」を表す使い方でしたが、亀の甲羅(こうら)や獣の骨に刻まれた占いの文章には、占った人が誰かとともに、何日にそれを占ったかが、必ず「干支」で示されています。

「十干十二支」を用いる歴史は、そんな古い時代から始まり、日本に伝わって今日まで続いているのですから驚くべきことですが、「十二支」に動物の名前を当てはめるのは、中国でもずっと新しい時代(それでも今から2000年ほど前)のことでした。ですから、干支に使われる漢字と動物とは直接関係がありません。

酉・金文

酉/金文3000年前

酒・甲骨

酒/甲骨3300年前

今年の「(とり)」もそういう字です。「とり」は「とり」でも「ひよみ(こよみ)のとり」といって、「暦」の上で用いる「とり」で、本物の「鳥」とは区別しています。では、「酉」の成り立ちは何かというと、古代文字を見ればわかるようにもとは「酒つぼ(酒器)」の形から出来た字です。

松尾大社の酒壺

写真:松尾大社の酒壺

「酒」という字の「(つくり)(右側)」にあるのでわかります。ですから、酒にまつわる字の中に入っていることが多いです。お(しゃく)の「」、「焼酎」の「」、そして「酔う」という字の「」にもあります。

配・甲骨1

配/甲骨3300年前

よく使う字の中では「配る」という字の中にも「酉」は入っています。「配」は古い文字を見るとひざまずいて座る人の前に「酒つぼ」が置かれています。酒(器)が配られるのを待っている人のようにも見えます。「くばる」は「酒」を人にふるまう、あるいは「酒器」を人に割り当てることを表すのが最初の意味でした。おそらく、そうして酒をふるまう、酒器を割り当てることは「人」を支配することともつながっていることから、「支配」の「配」のように「したがえる」という意味に用いるようになったのでしょうし、三々九度のように酒を介して男と女を「めあわす」こともあったので、「配偶者」の「配」という字にも用います。

尊・甲骨

尊/甲骨3300年前

意外な字の中では「尊敬」の「」の中にも入っています。古い文字を見るほうが分かりやすいのですが、二つの手で酒つぼを挙げているようなポーズです。まさに、酒を神様にうやうやしくお供えしている姿なのです。ですから、「とうとい」という意味の「尊」という字になるのです。(現在の「尊」の一番上にある「点々」は、酒からいい香りが立ち上っていることを表しています。)

医・旧字

医/旧字体

さて、今はほとんど見なくなりましたが、「医者」の「」という字の旧字体にも「酉」が入っていました。医術に酒が使われた時代もあったのです。酒は傷口の消毒にも、麻酔薬にも使われていました。

今年の干支「酉」は、「成り立ち」から言えば「酒つぼ」の形を表す字です。「とり」を表す「鳥」とは違いますが、千鳥足のようにふらふらしない1年になることを願っています。

放送日:2017年1月9日