學・金文

今年の4月は、私にも環境の変化があり、あわただしい月となりました。ようやくひと段落ついて、ラジオも再開です。久しぶりに学校現場に戻りましたから「学校」という字を取り上げてみようと思います。

子供たちの学び舎としての「学校」は、中国ではすでに三千年以上前からありました。もちろん、庶民も含めたすべての子供たちのためというより、「特別な階級」の特別の子供たちのためだったのですが・・・。その子供たちがどんなところで学んでいたのか、それを教えてくれるのが「学校」の「」という字です。

學・金文

學/金文3000年前

三千年前の古い文字(金文)は上に飾りのある字です。実は、今私たちが使っている「学」の少し前の古い字(旧字体)は「學」と書きました。三千年前とほぼ同じ字体をつい最近まで使っていたのです。(旧字体の學は、上側が興味の「興」の上側と一緒です。興は真ん中が「同」ですが、學は真ん中が✕二つになっています。その下側は建物の屋根と学んでいる子供を表しています。)

「學」は、✕が二つある建物の中で子供が先生の手ほどきを受けて学んでいる様子を表す字です。(✕の左右にある形は「左右の手」を表しています。)✕が二つある建物とはどんな建物だったのでしょうか?現在の日本の建物にも残っているのですが・・・?

それは、日本の神社に残っています。屋根の左右に✕形の木(=千木(ちぎ)と呼ばれています)が飾られている建物のことです。その建物の屋根にある✕形の飾りは何を表しているのでしょうか?

平野神社‗千木(平野神社 千木)

「✕」の起源を探ると、何かを閉じ込めること=封印の意味や悪いものが取り付かないようにする魔除けの意味があることがわかります。神社の場合は、神様のいる神聖な建物に悪いものが取り付かないよう屋根に✕形の飾りをつけて守っているのです。

古代文字を見ると、学校の一番古い建物にも魔除けの✕形の飾りがつけられていたことがこれでわかります。三千年前の子どもたちの学ぶ場は神聖な場所だったのです。そこで、先生が手取り足取りしながら子どもたちを教えていたことがわかります。

胸・篆文

胸/篆文2200年前

凶・篆文

凶/篆文2200年前

ところで、✕形は他にもいろいろな字の中にあります。その一つが「」です。今の字にも残っているでしょ。人が亡くなると悪いものがその体に入り込まないよう胸の部分に魔除けの✕形の印をつけたのです。吉凶の「」にもあります。赤ちゃんが生まれ時の「」という古い字にも✕があります。赤ちゃんが生まれたとき額に✕を書いて魔除けのお守りにしたのです。

校・篆文

校/篆文2200年前

さて、学校の「」は「木へん」に「交わる」と書きます。交わるは人が足を交差させている姿からできた字です。それで、交わるですが、その交差が木でできていることを示す「校」は、まさに神社の屋根にある交差した木=✕形の千木を表す字です。「学校」という熟語を作る二つの字は、ともに屋根に✕形の飾りのある建物を表す字だったのです。

教・甲骨

教/甲骨3300年前

最後にもう一字紹介します。実は教育の「」という字にも✕が入っています。古い文字を見るとわかりやすいのですが、子どもの上に✕が二つあります。今の字では「教」の左側の「子」の上にある「教・ひだり部分」が✕の名残です。教えることは✕型の飾りのある神聖な場所で行われていたことを示します。「教」の(つくり)(右側)の「攵(ぼく)」は、棒(鞭)を持つ右手を表しています。教えるとは鞭を手に持って子どもたちを「しつける」ことでもあったようです。はるか昔の時代でも先生は子供にとっては怖い人だったのかもしれません。

放送日:2017年4月24日