乙訓筍

(たけのこ)のおいしい季節になりました。京都は筍の名産地でもあります。とりわけ乙訓地区(京都の西南の地域)の筍は春の食材には欠かせません。そこで、今回は「竹」にまつわる漢字をとりあげます。

竹・金文

竹/金文3000年前

「竹」という字は、すでに三千年前の金文にあります。古い文字は、二本の竹に生える葉っぱとそこをつなぐ地下茎を表す形です。竹が地下で根を張り巡らせる特徴がよくとらえられています。現在の「竹」は、地下茎の部分がなくなってしまいましたが・・・。

さて、漢字の中での「竹」は単独で使われるより「竹かんむり」として用いられる方が圧倒的に多い字です。

まず、「竹」の種類や特徴から生まれた字があります。「」は竹の一種。「」も生まれたての竹を言います。竹に「ふし」があることから、「」という字ができました(季節、関節)。節と節の間が「空洞」であることから「」とか「」という字もできました。節と節の間が空っぽであることからそこに穴をあけて楽器とした「」という字もできました。(「管」も楽器として用いられました。)

次に、「竹」が生活の場面で様々に用いられることからできた漢字があります。魚釣りの「竿」、竹の棒を使って数を数える算数の「」、竹で編んだ器を「竹かんむり」に「龍」と書いて「」、帽子のようにかぶる「」などいろいろあります。

簡・篆文

簡/篆文2200年前

竹が用いられた例として、紙が発明される前の古い時代に、文字を書く材料として木や竹が使われたことがありました。木や竹を短冊のような細い札にしてそこに文字を書き、それをひもでつないで一冊の本のようにしました。(今私たちが用いている「冊」の字は、短冊を並べ、ひもを通した形そのものです。)

その短冊の形が木でできているときは木簡、竹でできている場合は竹簡と言いました。「カン」は「簡単」の「」。白川先生は竹や木の薄い札に書くのは「(ぎょく)(きぬ)に書くのに比べて手軽な書記の方法」なので、簡易、簡単などの意味をもつようになったとおっしゃっています。(簡は、竹簡を結ぶ紐のすきま間を表す字だという説もあります。)その竹簡からできた漢字で今もよく用いている「竹かんむり」の字があります。

等・篆文

等/篆文2200年前

一つは、「平等」=「ひとしい」と使う時の「」です。(竹かんむりに寺と書きます。)竹簡に使う短冊の長さは決められていました。いつも同じ長さの竹が用いられたので、「等しい」の意味の「等」は「竹かんむり」になりました。

第・篆文

第/篆文2200年前

もう一つ、竹簡は短冊を一つずつ、順序良くひもでつなぎ合わせていったので、順番とか順序を表す意味を持つようになりました。それで、ある字ができました。わかるでしょうか?

答えは、「第何回」という時の「」です。(竹かんむりに「弟」の省略形。)式典が行われるとき「式次第」と書かれることがあります。式の順番のことを式次第といいます。そこに使われている「第」こそ、竹簡を順序良くひもでつなぐことから生まれた字です。

竹かんむりの字は今日紹介した字以外にも次から次へと地下茎のように拡がって行きますが、今日話題の「(たけのこ)」の字を最後にお伝えします。

筍・金文

筍/金文3000年前

「たけのこ」は「竹かんむり」に「旬」と書きます。この場合の「旬」は、「ジュン」という音を表す役割だと考えられていますが、古い文字を見ると地下茎から筍が生えているようにも見えます。それにしても、「旬」がちょうど一番いい状態の時を表すとしたら、柔らかい竹の子のおいしい季節こそ、竹の旬に違いありません。うまい組み合わせの字だと思います。

放送日:2017年5月8日