今回は「アフパラ」のテーマ「発酵食品」に便乗します。

麹・篆文

(麹・麹/篆文2200年前)

「発酵」といえば、「(こうじ)です。「麹菌」は、すでに3000年以上前の古代中国で見つかっていました。漢字を生み出した「商の国(殷)」では酒の醸造に「麹」を用いたと言われています。麹は、米や麦などの穀物に、コウジカビなどの微生物を繁殖させたものですから、「麹」という漢字には、その材料である「麦」と「米」が入っています。(正確には「米」は「(きく)」と同じ音で読みなさいという印(音符)の一部ですが。)

実は、麴に関連した漢字には「(ゆう)」という漢字が多く用いられています。「酉」は酒を表していますが、酒が直接関係したわけではなく、酒を造るための酒麹(さけこうじ)」を「麹」の代表として古代の人々は考えていたようです。

たしかに、「発酵」の「」にも、醸造の「」にも「酉」が入っています。これから取り上げる「醤油」の「」の中にも「酉」が入っています。「酉」は「発酵食品」のシンボル的存在なのです。

醤・金文

醤・醬/金文3000年前

醤・篆文

醤・醬/篆文2200年前

 醤

醤油の「」という漢字は、古くは「醬」と書かれ、その起源も3000年ほど前の「周」の時代にまでさかのぼることができます。その時代の「醬」は、肉や魚などを塩漬けにして発酵させたものでした。「醬」の古代文字(篆文)には、確かに「月(肉)」が入っています

肉を塩で発酵させたものを「肉醬」、魚を発酵させたものは「魚醬」と言いました。魚醬は独特の臭い香りのある秋田の「しょっつる」やタイの「ナンプラー」などがその系列です。肉と魚以外に「穀物」を材料として塩で発酵させたものを「穀醬」と言い、大豆を用いた「醤油」や「味噌」がその系統になります。

その「醬」がいつ頃日本にやってきたのか、もともと日本にあったのか詳しくはわかりませんが、日本で最初に「醬」という漢字が登場するのは、奈良時代直前の「大宝律令」(701年)の中です。「未醬(みしょう)」という言葉で書かれていました。

ある説では、大豆の粒が残った状態のもので、()まんで食べていたとのことです。その「未醬」=「みしょう」が「みしょ」→「みそ」へと変化していったと言われています。もちろん、その「未醬」」は大変貴重なもので、庶民の口には入らない代物だったようですが、今私たちがみそ汁として飲むような「味噌」の使い方が始まるのは、鎌倉時代からだそうです。味噌も「醬」が起源なんですね。その味噌樽の底に「たまり醤油」はあったわけです。

酪・篆文

酪/篆文2200年前

そ

そ *古代文字なし

さて、発酵食品の代表例でもう一つ欠かせないのは、牛や山羊等の乳を発酵させた「」です。現在のヨーグルトの元祖のような飲み物です。「そ(そ)」という乳製品もありました。レアチーズかバターオイルのようなものだと言われています。

古代中国では北方の騎馬民族が持ち込んだ乳製品として食べられるようになりますが、上流階級しか手に入らない貴重なものでした。日本でも事情は同じで、大化の改新(645年)ごろに初めて百済からの帰化人によって牛乳が献上され、天皇がそれを飲んだことが記されています。その後、奈良時代になって保存のきく乳製品の「そ(そ)」を諸国に献上するよう命令が出たりもしていますが、すぐに腐ってしまうことからなかなか広がらなかったようです。「酪」や「そ(そ)」は、上流階級が滋養強壮の薬として食すものでした。

醍・篆文

醍/篆文2200年前

醐・篆文

醐/篆文2200年前

その乳製品の中で、最も美味な食べ物を「醍醐(だいご)と言いました。京都に「醍醐」という地域があり、「醍醐寺」というお寺も残っていますが、牛または山羊の乳で作ったヨーグルトのような甘い飲み物でした。

仏教の「大涅槃経」という書物の中に、牛乳を精製するにあたって、発酵の段階によって5つに分け、その味を「五味」と言う記載があります。乳→酪→生そ(しょうそ)→熟そ(じゅくそ)→醍醐。牛乳をそのままで飲む「乳」から始まって、発酵のグレードが上がって最上の段階に「醍醐」があります。今でも、多くの学者が再現を試みているようですが、なかなかその味が出せないようです。当時でも、最高の味だということで、「この上もないおいしさ、深い味わい」という意味で「醍醐味」という言葉もできたくらいです。

今日紹介した「酵」、「醸」、「醬」、「酪」、「瞥」、そして「醍」、「醐」。これらのすべてに「酉」が用いられています。「酒麹」がすべての「発酵食品」の始まりだったことが伺える用いられ方です。

3000年以上も歴史のある「発酵食品」が残り続けた理由があります。自然の食材をフル活用して、人々の健康に寄与してきたのです。

放送日:2022年3月14日