月見・金文(月見 金文3000年前)

前回、私の9月(長月)のイメージは、老人と月(ムーン)という話をしました。その際、二つ目の「月(ムーン)」にまつわるエピソードが話せていませんでしたので、今回はその続きから始めます。

話は、私の高校時代にさかのぼります。私は国語の教科が好きでした。中でも古典が好きでした。その古典の中でも兼好法師が書いた「徒然草」がとくに好きでした。

あるとき、その徒然草の本の中で、「九月(ながつき)廿日(はつか)のころ、ある人に誘われたてまつりて・・・」で始まる不思議な文章に出合いました。(以下、その文章を私なりに意訳します。)

九月(長月)二十日ごろ、兼好は仲のよい友達に誘われ、月見に出かけます。途中、友達が、親しい女の人の家の前まで来た時、「しばらく待っていてくれ、少し話をしてくるから」と言って家の中に入っていきます。

残された兼好は、さりげなくその家のたたずまいを見ると、庭はさほど手入れをしているようには見えませんでしたが、夜露に濡れ、どこからともなく良い香りが漂ってきます。なんとも風情(情趣)のある家だなと感心していました。

すると、友達が女の人に見送られて玄関(妻戸)から出てきます。この家の女主人はどんな人なのか、気になって兼好はこっそり隠れて見ます。すると、その女主人は友達を見送ったあと、すぐに玄関(妻戸)に鍵(掛け金)をかけて家の中に入らず、じっと月を眺めています。(月を見るように友達の後姿をそっと見送っているのです)その振る舞いの見事さに兼好はますます感心してしまいます。誰かが見ているからではなく、日頃から思いやりがあるからできることだと。

そんな良くできた女の人に出会えた歓びを語った後、突然、「その人、ほどなく失せにけりと聞きはべりし。(その女の人はほどなくして亡くなってしまったそうである。)」と言って、いきなり話は終わります。

高校生の私は、ええ?と思いながらも、幻のような薄命の女性に魅かれたのか、こんな物語を生み出す京都の街で兼好が見た同じ月を眺めてみたいと思ったのか、今では定かではありませんが、「なんとしても、京都に行きたい!」と強く思わせたのです。ですから、岐阜の田舎で育った私の京都行きを強く後押ししたこの長月の「月見」の話が忘れられません。

その後、私は京都行きの念願をかなえます。それも、兼好が住んだ右京区の双ヶ岡近くの妙心寺というお寺に、下宿することになりました。以来今日まで、妙心寺を皮切りに、伏見区、左京区、北区、そして再び右京区と京都の街を、居を移しながらぐるっと一回りするように、9月(長月)の月を眺めてきました。気づいたら、50年を超える歳月が流れていたというわけです。

そんなこんなで、9月(長月)といえば、「長(老人)」と「月見」。これが私の9月(長月)のイメージとなりました。

さて、そんな京都50年の私から、今日の漢字川柳のお題「難読漢字」に便乗して、京都の地名「難読漢字」の問題です。
以下の地名は何と読むでしょうか。4問以上正解なら、あなたはまちがいなく京都通です。*答えは記事の一番最後に。

第1問 左京区:雲母坂

第2問 北 区:上終町

第3問 上京区:白銀町

第4問 右京区:生田口

第5問 京丹後:間人

【参考】

九月廿日のころ、ある人に誘はれたてまつりて、明くるまで月見ありく事はべりしに、おぼしいづる所ありて、案内せさせて、入り給ひぬ。荒れたる庭の露しげきに、わざとならぬ匂ひ、しめやかにうち薫りて、忍びたるけはひ、いとものあはれなり。
よきほどにて出で給ひぬれど、なほ、事ざまの優に覚えて、物の隠れよりしばし見ゐたるに、妻戸をいま少し押し開けて、月見るけしきなり。やがてかけこもらましかば、口をしからまし。跡まで見る人ありとは、いかでか知らん。かやうの事は、ただ、朝夕の心づかひによるべし。
その人、ほどなく失せにけりと聞きはべりし。

『吉田兼好.徒然草32段』

 

【京都地名難読漢字問題の答え】

第1問 きららざか
第2問 かみはてちょう
第3問 しろがねちょう
第4問 おいだぐち
第5問 たいざ

放送び:2022年9月26日