三月三日は「桃の節句」。女の子の健やかな成長を願うこの日に桃の花を飾るのは、桃が華やかで美しい花だからということもありますが、それ以上に昔から桃には魔をよける力があると信じられてきたからです。
桃がどうして「魔よけの力」をもつようになったか定かではありませんが、中国古代の人々はすでに「桃の木」にその力があると信じていました。
邪気を祓うための儀式用の弓は桃の木で作りましたし、土地にいる邪悪なものを追い払うために桃の枝も使いました。その果実は「不老長寿」の薬として用いられたとも言われています。日本にも邪悪な鬼を退治する桃から生まれた「桃太郎」がいたりします。
この桃が持つ様々なパワーは「桃」という漢字の中に隠されています。
桃は「木へん」に「兆」という字から出来ています。現在「兆」はお金の単位として用いることが多い字ですが、本来は何かの「きざし」とか「兆候がある」といった言い方をするときに使う字です。
その「兆」のルーツは古代の占いの方法から来ています。三千年以上前、漢字を生み出した人々は「占い」を行って大切なことを決めていました。神様の意向を聞くために亀の甲羅(腹甲)の裏側に穴を開け、そこに火をあてて甲羅に罅を入れ、そのひびの入り具合で吉凶を占っていました(その甲羅に占いの内容や結果を刻んだのが甲骨文字といわれる最古の漢字です)。
←亀のお腹の甲羅。中央線を境に左右対称になっている。裏側に穴がある。
「兆」という字は、その占いのときの左右対称に「ひび」が入ったときの亀の甲羅の様子から生まれた字です。縦に線が入り、横に線が広がる「兆」の字は、そのひびの割れ方から神の意向を読んだので「きざし、予兆」という意味に使われるようになりました。
亀の甲羅に神の意向を伝える力があるように、桃の木にも神を宿す力があることを占いの「兆」の字を入れて表しました。古代の人々は桃に神を宿す力があることを字の成り立ちに込めたのです。
そこで、「兆」が入った字を探してみてください。「力」を発揮する字が多いのです。
たとえば、跳躍の「跳」、「跳ぶ」という字。ジャンプするには足の力がいります。だから「あしへん」に兆で「跳」です。跳躍するには、はじけるように「はねる力、とぶ力」が要るのです。
挑戦の「挑」、「挑む」もそうです。挑むにもパワーがいります。みなぎる力が新たな挑戦を生み出します。「てへん」に兆と書く「挑」には、失敗を恐れぬ「挑む力」が必要なのです。
前向きな力ばかりではなく、後ろ向きの力もあります。思うようにいかなくて逃げ出すときにも力は要るのです。逃げるという字にも「兆」が入っています。逃げるにも力がいることを昔の人はちゃんと知っていました。逃げるにしてもエネルギーが要るということです。
「兆」という字は亀の甲羅の占いから生まれた字でした。その占いの力が字の中に入り込んで、いろいろな力を発揮しています。中でも桃は、邪気を祓う特別な木としてはるかな昔から大切に扱われてきたのです。その名残が「桃の節句」の花飾りとして今に残っているというわけです。
三月、新しい春を迎える季節ですから、部屋に桃の花を飾って昔の人々のように邪気を祓い、新たなパワーをもらってはいかがでしょうか。
放送日:2015年3月2日
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