前回(10月24日)は、古代文字とモダンダンスをコラボして「古代文字ダンス」を作ったことを紹介しました。
その折、「左右の巻」と「手の巻」と「足の巻」という3つのシリーズを作ったことを話しました。今回はそのそれぞれのシリーズの中で、どんな漢字を取り上げたのか、具体的に紹介してみたいと思います。
一つ目の「左右の巻」では、13の漢字(右→左→尋→尊→拝→大→立→並→笑→若→舞→回→永)を取り上げました。左右の手の動作から始まって拝む姿、人が立ち並ぶ姿、そして、動き出して舞い踊る姿、さらに激しくぐるぐる回りながら永遠に流れていく水の姿へと変化する様子を描きました。
始まりは、「右→左→尋」からです。
右/金文3000年前 |
左/金文3000年前 |
尋/金文3000年前 |
「右」という字は願いごとを入れる器= (サイ)を右手に持つ形。「左」は神を呼ぶ祈りの工具(呪具)を左手に持つ形。
祭りの時、願い事をいれる器を右手に持ち、左手に工具を持って舞いながら神の居所をたずね、神に降りてきてくれるよう祈る姿が「尋」の字です。ですから、「尋」は「右」と「左」の字を縦に重ねて作られています。「尋」の上の「ヨ」と下の「寸」は手の形。その間にある「工」と「口」が左手と右手に持った工具と器です。
おそらく、現代の巫女さんが神楽を舞うような所作で、器と工具を手に持って、舞を舞ったと思われます。これこそ、舞踊のはじまりの時代の姿です。今回の古代文字ダンスも、この古い舞踊の記憶、左右の舞いから始めました。
発發/篆文2200年前 |
射/金文3000年前 |
至/甲骨3300年前 |
二つ目は「手」の形が入った漢字を集めた「手の巻」です。
手→看→發(発)→射→至→持→爭(争)→具→受→友の10個の漢字です。
ところが、10個の中に一つだけ手の形が入っていない字があります。それが、「發(発)」→「射」の後にある「至」です。この字は矢が地面に突き刺さった形からできた字です。古代文字ダンスでは突き刺さった矢を手で引き抜くような動作で示されていますが、この字には手の形は入っていません。
入っていませんが、「發(発)」→「射」とくれば、到達することを表す「至」の字につながないわけにはいきません。というのも、発も射も矢を射ることと関係しているからです。
「発」の字は、旧字体では「癶(はつがしら)=両足をそろえる形」と「弓」と「殳(るまた)=ものを持つ手」からなる「發」と書きました。手で矢を射ることを表した字で、ちゃんと弓の字が入っています。古代の戦いでは、敵に弓を射ることを開戦の合図としていたので、「發」はことを「はじめる、おこる」の意味で用いられるようになります。古代文字ダンスでは、矢をつがえて射る構えで「發」を、弓を射るところを「射」で表しています。「射」の古代文字(金文)は、弓につがえた矢を手で射る形( )そのものです。
発射された矢が飛んでいった先はどこか、それを表す字が地面に突き刺さっている形の「至」です。まさに矢が「到達する、いたる」ところを指します。
及/金文3000年前 |
急/篆文2200年前 |
最後の第3シリーズは「足の巻」で、足に関係する字を9つ(交→往→止→出→跳→歩→先→急→企)集めました。その中から「急」の字を取り上げます。
「いそぐ」という意味の「急」は「及ぶ」というときの「及」と「心」との組み合わせでできた字です。
「及ぶ」は先に行く人に手でタッチして追いついたことを表す字です。逃げた人をおいかけて追いつく場面でも、先に出た人が忘れ物をして、それを届けようと後を追っかけてやっと追いついた人を思い浮かべてもいいですが、とにかく手を出して追いついたことを表す字です。
その「及」が「心」の上にある字が「急」です。その時の早く追いつこうとする心(気持ち)を表す字です。ですから、「いそぐ」となります。ダンスでは足にとりつくように演じられています。古代文字(金文)の「及」が追いすがって足に手が届いたように描かれているからです。一見足とは関係ないようですが、足が絡んでいます。
こんなふうに、古代文字ダンスの一つ一つの動作に文字の形や意味が乗り移っています。演じていただいたバレエ団の皆さんのおかげです。是非YouTubeを見ていただいて、古代文字とダンスにはとても親和性があることを知っていただけるとうれしいです。
動画の視聴は以下のwebページから
https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=1915
放送日:2023年11月13日
2023年11月28日 at 8:43 PM
毎回楽しみに見ています。古代文字サークルの導入材料として大いに参考になります。歌もダンスもサイコーです。
2023年12月4日 at 9:27 PM
見ていただきありがとうございます。私も藤田さんの『ものしり文字会』の内容を講義レジュメで学ばせていただいています。これからも新しい話題を提供していただけることを楽しみにしております。