ラジオ第221回「龍・竜」

竜・龍・甲骨

前回、リスナーの方から質問が届いていましたので、それから話をさせてもらいます。

質問は、

集落』って『落ちる』と『集まる』ですが、よく山奥の温泉に行くと平家の落武者がここに逃げて来て住み着き、温泉を見つけたのが始まりとかよく聞きますが、落武者が集まって集落になって発展した所ばかりではないはず。なんで集落は落ちて集まるなのでしょうか?

でした。

 

おもしろい質問ですね。確かに、落ち武者が絡んだ集落は全国のあちこちにあるだろうと思いますが、おっしゃる通り、みんな、落ち武者が集まって作った所が「集落」なら、日本中落ち武者だらけですよね。そんなことはないだろう?じゃ!なんで落ちると集まるで「集落」なのか、確かに気になります。

そこで回答です。

「落、落ちる」という言葉は、上から下へと移動することから、「試験に落ちる」、「落ちぶれる」、「落ち込む(悪い方に向かう)」、「都落ち(逃げ出す)」のようによくないほうに移動するというニュアンスで使われることが多い言葉です。ですから、ついマイナスに考えがちですが、「落、落ちる」には他に「安定した状態になる」という意味で使われることがあります。その代表が「落ち着く」、「一段(いちだん)(らく)着く」、「落成(建物が完成すること)」、「話の落ち」などの使い方です。集落はこちらの意味で使われた例で、「人々が集まって安定して住む場所」を表します。

ですから、「集落」は、文字通り「人々が集まって落ち着いた場所」を表しています。

どうでしょうか、落ち着きましたか。私はこういう言葉へのこだわり方が好きです。言葉の使い方にひっかかるのも頭のいいトレーニングになりますから。どうかこれからも言葉にこだわり続けてください。

 

龍竜・甲骨

龍竜/甲骨3300年前

竜・龍・金文

龍竜/金文3000年前

龍竜・篆文

龍竜/篆文2200年前

では、前回予告した「龍・竜」についてです。

今年の干支は「たつ」ですが、動物で言えば、「龍・竜」です。今は二通りの書き方がありますが、画数の多い「龍」のほうが、古くから正式に使われてきた字です。今はその龍のくずし字として使われていた「竜」とも書きます。くずした「竜」も古くから使われてきた字ですが、日本ではくずした「竜」の方が「常用漢字」に入ったので、学校では「竜」の字を習いますが、画数の多いもとの字の方は人名用漢字に入っていますので、ややっこしいですが両方とも現役の字です。

といっても、竜は古代中国の人々の想像上の動物ですが、その歴史は古く3000年以上前からあります。最初の字(甲骨)の中に、頭に(かんむり)(かざ)りをつけた蛇のような体を持った形のものがあります。竜が人知の及ばない不思議な力を持つ聖獣として特別な存在だったことを示しています。現に、雨や水を支配する神=竜神とみなされていました。冠飾りは、現在の「龍・竜」の中に「立」の形で残っています

云・甲骨

云雲/甲骨3300年前

云雲・篆文  雲・篆文

云雲/篆文2200年前

その竜は、雲の中に潜んでいると考えられていたので、「」のもとの字の「(うん)」は、「雲の流れる下に竜の巻いている尾が少し現れている形をしている」と白川先生はおっしゃっています。

旬・甲骨

旬/甲骨3300年前

旬・篆文

旬/篆文2200年前

同じように、竜の尾を巻いた形からできた字に上旬・中旬・下旬というときの「」があります。旬の甲骨文字は、「尾を巻いた竜の形で、それだけで十日を意味した」ということです。白川先生は「十日間の旬が竜の形で示されているのは、一旬(十日)の吉凶を支配するものが、この竜形の神であると考えられたからであろう」と言われています。後に、尾を巻いた竜の形「勹(ほう)」に「日」を加えて今の「旬」の形になったそうです。

ところで、竜と言えばお寺のお堂(法堂)の天井に描かれていることで有名です。京都のお寺にはとりわけ竜の絵が多いです。天龍寺、妙心寺、大徳寺、相国寺、建仁寺などなどそうそうたる寺院の天井に描かれています。竜が天井からにらみを利かせて、仏の教えを伝える場所を守る役目をしているとも水の神さまだから火からお堂を守る役目をしているとも言われていますが、いずれにせよ、にらみを利かせた竜の迫力を是非一度仰ぎ見ていただきたいです。

年明けから辛いこともありましたが、今年1年、竜に守られながら、健やかに過ごせますように。

(今日は、『漢字ときあかし辞典』円満字二郎著も参考にしました。円満字先生の本は読みやすいので、是非漢字に関心のある方は手に取ってみてください。)

放送日:2024年1月22日


2 Comments

  1. 「集落」集まって落ち着く、よくわかりました。
    ところで「革命」は天命をあらためるですが、なぜ「皮革」の「革」なのでしょうか。「改革・変革・・・」も??。
    皮も革も象形文字のようですが、違いがよくわかりません。

    • 510sensei

      2024年2月20日 at 9:21 PM

      「毛のある動物のかわ」を表わすときは「動物の毛が残ったまま」の場合は「皮」を用います。「動物の毛を取り除いて加工したもの」の場合は「革」を用います。ですから、「毛皮のコート」「皮の敷き物」と言えば、毛がついたままの製品ですが、「革靴」「革のジャンバー」といえば、毛が付いていない製品のことを言います。「皮」は毛のついた皮そのもの。「革」は毛を取り除いた加工品を表します。そこが違います。

      では、どうして「革」が「革命、改革、変革」等と使われるのでしょうか。この場合の「革」は「あらたまる、あらためる、新しくする」の意味で用いられています。どうしてそういう意味を持つようになったのかいくつか説があるようですが、「革」が加工されたものということと関係しているようです。

      「もとの毛皮が加工され、新しく別の製品に変化する」、つまり新しく生まれ変わるのですから、「革命・改革・変革」などと用いるのです。余談ですが、もともとワニのように毛がない場合は、どう書くのでしょうか。その場合は、ワニ皮の財布、ワニ革の財布どちらでもお好きなようにということです。

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