放送日:2014年5月19日

第1回目の漢字の話は「かみなり」「ライ」という字を取り上げます。雷という漢字は、「雨かんむり」に「でん」、雨に田という字を書いて「ライ・かみなり」と読みます。

その字の「雨かんむり」は自然現象を表す字に使われるので、「雷」の字に使われるのは納得できます。では、雷に「田」という字が使われているのはなぜでしょうか。「田」とはそもそも何を表しているのでしょうか。考えてみようと思います。

昔、田植えのシーズンに「かみなり」が鳴ることが多いから雷というんだよと先生から教えてもらった記憶がありますが、実はこの「田」は、「田んぼ」の田ではないんですね。

では何か?

現在の「雷」という字の田は一つですが、少し前の字を見ると雨の下には田が三つあります。もっと古く雷という字が生まれた頃(今から3000年ほど前)の字には、田が4つもあったんです。「田」は現代に近づくにつれてだんだん省略されて一つになった字なんです。

雷

ですからこの字を生み出した人たちの思いを探るには、一番もとの形に近い字から探ることが必要です。この場合は、一番古い形「金文(青銅器に鋳込まれた字)」から「成り立ち」を考えます。

雷

まず目につくのは、絵のような字の中にあるくねった「S」のような形と横棒の「一」の形。これは何を表しているのでしょうか。

実はこれは「稲光(いなびかり)」を表しています。空から地上に走る稲光、空では枝分かれのように横にも稲光が走るので、くねるようなSの形と一(横棒)で表したのです。3000年前の古代中国の人びとは空で光る稲光の様子を雷の字の中にこんな形で形象化したのです。

では、それを囲むようにある「○に十字」のマーク、これこそのちに四角となった「田」の最初の形です。それは何を表しているのでしょうか。

今の字からではわかりずらいですが、最初は□(四角)というより○(丸)だったということ。しかも4つもあったということ。ここから、それが何を表しているか想像してみてください。

ある人は、稲光が縦横だけじゃなく四方に放射状に広がっていくさまを表しているのではないかと。

ある人は、稲光をSと横棒で表しているのだから、○に十字は別のことを表す。雷の特徴は光と音。とすれば、この「○に十字」は音を表す「太鼓」のマーク。四方に轟く音を太鼓のマークで表しているのではないかと。

ある人は、これは「空気のかたまり」であると。稲光が暴れて空気をかき回す。なるほど、○に十字は車輪のようにも見える。回転する形。「冷たい空気のかたまり」が二つ、「暖かい空気のかたまり」が二つ。その二つの空気のかたまりがぶつかり、かき回されると激しい「かみなり」が起こる。

たしかに、現在の科学では「冷たい空気と暖かい空気がぶつかりあって、『大気が不安定』になると雷が発生する」とわかっています。

まさか、3000年前の人たちがそのことを知っていたわけではないでしょうが、経験を通して空気のぶつかりで大気がかき乱され、雷が起こることに気づいていたとしたら、古代の人々の想像力の凄さにびっくりです。

雷の字にある「田」をあれは「田んぼ」ではなく「空気のかたまり」を表していると考えると、ちょっとすごいなと思います。もちろん、「電電太鼓」のような「太鼓」説も捨てがたいですし、稲光が四方に放射する様子という説も悪くありません。

今となってはどれが正しいといった答えは出ませんが、古い文字を紐解くと現在の字ではわからなくなったその字の誕生の秘密をあれこれ考えさせてくれることがあります。そんな漢字の秘密を「成り立ち」の話を通して、これから皆さんに楽しくお話ししていけたらと思っています。