力・甲骨

今日11月23日は「勤労感謝の日」。「勤労」という字にまつわる話をします。「勤労」という字を眺めていると共通するパーツに気づきます。それは「力」です。「勤労」には「力」がかかわっています。ということで、「力」という字から始めます。

「力」という字は、ある道具の形から出来た象形文字ですが、何から出来た字かわかりますか。下の3つの古代文字を見て想像してみてください。

力・甲骨(甲骨) 力・金文(金文) 力・篆文(篆文)

甲骨や金文を見るとはっきりしますが、それは田や畑を耕すときに使う「(すき)」という道具です。
(くわ)と似ていますが、取っ手の先がフォークのような形をしています。

古く、漢字を生み出した頃の人々もこうした道具で田を耕していました。それを表す字が「男」という字です。

男・金文(男・金文)

ひょっとすると「田」を耕す力仕事は「おとこ」の仕事だったので「男」という字が生まれたと学校で習ったかもしれませんが、白川先生は田を耕したから「男」というだけでなく、「農地を管理する人」の意味でも「男」という字は使われていたとおっしゃっています。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵などと「爵位」を表す字として使われるときの「男」は「農地の管理者」としての「えらい」地位を表す字でした。

その「田」を多くの人たちで力をあわせて耕せば「協力」の「協」という字になります。「鋤=力」が三つも入っています。

協・篆文(協・篆文)

「力」が少なければ、「力」の上に「少」と書いて「劣る」という字の「劣」になりました。

劣・篆文(劣・篆文)

また、農作業が始まる前と終わりには大切な「鋤」を清める儀式も行われました。「鋤」を清めておけば、悪い虫の害を防いで、生産力をあげてくれると信じられていたからです。

その儀式を表す字が「力」に「願い事を入れた器=口(さい)」を組み合わせた「加」という字です。神に供えて「鋤」を清め、実りを増やす力をもらったのでした。それによって豊かになり、喜ばしい結果がもたらされるので、「貝=財物」をくわえた「年賀」の「賀」という字も生まれました。

加・甲骨(加・甲骨) 賀・篆文(賀・篆文)

「勤労」の「労」という字も、もとは「鋤」をはらい清める儀式を表す字でした。
「労」の旧字体は「勞」と書きました。昔は「火」が二つ上についていました。この火は「かがり火」で聖なる火を表しました。聖火で「鋤」を清める儀式を「勞」といいました。

神聖な火が力を与えてくれることから(神が)「たすける、いたわる、ねぎらう」という意味になりました。(やがて、「労」は「つとめる、はたらく」の意味となり、さらに「つとめる」ことから「つかれる、くるしむ」等の意味にも使われるようになった字です)。

「勤労」の「勤」は少し怖い字です。「勤」の左側は「飢饉」の「饉」という字の右側と一緒です。そのパーツ=きん(きん)は、飢饉をもたらす「日照り」の時に雨乞いの犠牲(いけにえ)として火あぶりの刑にされる巫女の姿を写した字です。そのような「飢饉」に見舞われないよう(見舞われたとしても生き延びられるよう)、一所懸命「鋤」をふるって働くことを「勤」=つとめるといいました。

一所懸命農作業に「勤め」、それを「労=ねぎらう」ことが「勤労」という字のもともとの意味だとすれば、今日は文字通り「勤労の日」なのです。

勤1・金文  勤2・金文(勤・金文)
労・篆文(労、勞・篆文)

放送日:2015年11月23日