こう・金文

今回はできれば古代文字を見ていただくとイメージしやすいのですが、上下対称になった不思議な形の古代文字があります。同じ形の模様が向き合って上下に並んでいます。

飾り紐白川先生は、ひもを結び合わせて組みひもを作り、それを上下につないだ形からできた字だとおっしゃいました。今でも中国には「上下双福結び」というひもの結び方があるようですが、古代文字はその結び方にそっくりです。確かに、中国のお土産の中に、房付きの赤いひもを結び合わせて、上下につなぎ合わせた「ひも飾り」があります。福を招く縁起のいいひも飾りとして売られています。吉祥とか開運の縁起物です。はるか昔の古代の人々も、そのような願いをこの上下同じ形のひも飾りに込めていたのかもしれません。(右の写真参照)

こう・金文

こう/金文3000年前

こう・篆文

こう/篆文2200年前

では、この上下対称のひも飾りからできた漢字は何でしょうか。2200年ほど前の漢字(篆文)を見るとなんとなく思いつくかもしれませんが、今は単独では用いられていません。その字は「木へん」や「言べん」や「さんずいへん」等の部首の右側((つくり))で用いられています。答えは構成という時の「構」、講義の「講」の右側((つくり))に使われている「こう(こう)」です。

そのパーツをじっと見ていると確かに複雑に組み合わせられた字です。今は上のパーツと下のパーツの形が少し違いますが、昔は上下同じ形のパーツが向き合って並んでいました。

ということで、「こう(こう)」は、同じ形の組みひもを「組み合わせる、組み上げる」、二つのものを「つなぎあわせる、結びつける」等の意味で用いられるようになります。

構・篆文

構/篆文2200年前

「木へん」をつけた「」は、ひもではなく木を組み合わせていく、木で組み上げていくことを表す字となりました。まさに「構築」、「構成」、「構造」に用いる「構」です。

講・篆文

講/篆文2200年前

「言べん」をつけると「」。言葉で上手に話の中身を組み上げていくことを「講」と言います。講義がまさにそうです。

溝・篆文

溝/篆文2200年前

「さんずい」をつけた「」は、水路をつなぎ合わせながら水の通り道を作ること、あるいは人工的に作った水の通り道=「みぞ」を指すようになりました。

購・篆文

購/篆文2200年前

「貝へん」をつけた「」は「こう」が二つのものつなぎ合わせるように、お金である子安貝を用いて、売ると買うを結び付ける=両者の間で売買が成立することをいいました。それで、ものを購入する、「買う」の意味をもつようになります。購読(雑誌などを買って読むこと)、購買(買うこと)のように用います。

再・甲骨

再/甲骨3300年前

再・篆文

再/篆文2200年前

さて、最後にひも飾りをもとにした漢字をもう一つ紹介します。今まで取り上げた「構」・「講」・「溝」・「購」の字の中にパーツとして入っていました。よく見るとわかります。

「ふたたび」という意味を持つ「」という漢字です。すべての字の右側(旁)の中に、「再」があります。「再」こそひもを結び合わせることを表す字です。上側で組み上げてきた模様と同じものを下側に「ふたたび」組み上げていくことから、「ふたたび」という意味を持つ「再」の字が生まれました。

「ひもの結び目に願いを込める」という考え方は、3000年以上前の漢字を生み出した人々の中にありました。ですから、ひもを結び合わせて作る「飾りひも」から「構」・「講」・「溝」・「購」・「篝」・「再」などいろいろな字が生まれました。そのもとになった「こう」は、少し画数が多くて複雑な字ですが、「画数」が多いだけの理由があるのですね。上下同じ飾りひもの模様がそこに組み込まれているからです。

放送日:2018年5月28日