走・甲骨

年の始め、慌てて走る必要もないかと思いますが、今年のNHK大河ドラマは「韋駄天」、全豪テニスでもサッカーアジア大会でも走り続ける日本人選手の活躍が報じられています。そんなこんなで、今回は「走る」にまつわる漢字を取り上げてみます。

走・甲骨

走/甲骨3300年前

奔・金文

奔/金文3000年前

まずは、「はしる」の「」。左側の古代文字を見ていただくとわかるのですが、「はしる」ことそのものを表した漢字です。「走」の上側(走・パーツ1 今の字では「土」の部分)は「手を振ってはしる人の姿そのもの」。下側(走・パーツ2)は「足あとの形」からなっています。

その「走」と同じパーツを持つ字で少し違う字があります。「走」と同じように人が手を振って走っているパーツの下に足あとの形が三つもある字です。「走」は「足あとの形」が一つでしたが、こちらは三つです。足あとが三つもあるということは「走」は「走」でも足をめちゃくちゃ速く動かしている様子を表しています。その字が「奔走(ほんそう)する」という時の「(ほん)」です。「忙しく走り回ること」を言います。古代文字を見ていると「奔」は「走」と兄弟の字だとわかるのですが、字の形が変化してしまったのでわからなくなってしまいました。ただ、ありがたいことに「奔走」という熟語があるので離れ離れにならないですんでいます。

*「走」は日本では「はしる」の意味で用いますが、今の中国語では「走」は「あるく」という意味で用いられています。現代の中国では「はしる」は「跑(パオ)」という字を用います。「走」のもともとの意味が、日本の用い方の中に残っています。

赴・篆文

赴/篆文2200年前

起・篆文

起/篆文2200年前

「走る」という字の「走」が「そうにょう」という部首で使われている字があります。例えば、「赴任(ふにん)する=任地に赴く」の「」。起き上がるの「」。山を越えるの「」。限度を超えるの「」等などです。その中から二つ紹介します。

ひとつは、任地に赴くの「」。「走」と「卜」との組み合わせ。「卜」はこの場合「ふ」という音を示す役割で使われていますが、亀の甲らを使って占いをする時に熱した棒でひびを入れた時の形が「卜」で、熱で瞬間的にひび割れが「走る」ように入ることをイメージさせてくれます。ですから「赴」には「行く、むかう」という意味の中に速やかに素早くというニュアンスが入っています。人が亡くなったことを知らせることを「訃報」と言います。言葉で知らせるので「ごんべん」がありますが、その横は「卜」です。速やかに・素早く、急いでのニュアンスがそこにも入っています。

もう一つは、「起きる」の「」。「走」と「己」との組み合わせ。「己」は古代文字を見ると「()」=蛇の形です。蛇が鎌首を持ち上げて素早く前に進もうとしている姿です。その姿は、人が起き上がる時の姿勢と似ているので、「立つ、おきる」等の意味となりました。どれだけ似ているか、蛇が鎌首を持ち上げるように朝起きてみてください。

最後に「馬へん」の字を二つ紹介します。

駆・篆文

駆/篆文2200年前

馳・篆文

馳/篆文2200年前

「かけっこ」というときの「()ける」=「()」という字も「はしる、かける」の意味を持つ漢字です。「()せ参じる(急いで駆けつける)」という時の「馳せる」の「()」も「はしる、かけつける」の意味があります。ともに「馬」が入っています。「はしる」の意味を持つ漢字に「馬」を用いることがあるのも、当時の生活を反映しているように思います。おそらく、急ぎの用事がある時は馬を走らせることが多くあったのだろうと思います。

放送日:2019年1月28日