令・金文和・金文

まもなく新しい年号「令和」が始まります。国書が出典だということがやたら強調されていますが、「元号」という制度そのものが中国からの輸入ですし、なにせ「漢字」を使っております。「万葉集」の引用箇所も中国の書物を踏まえての記述だと言われていますから、ことさら「初めて国書を出典とした元号」などと強調しなくても、国書・漢書どちらにも由来する「グローバル時代」の元号にふさわしいとでも言っていただけると嬉しいなと思っています。

ということで、今回は「令和」に用いられている漢字の成り立ちについてお話しします。

」はすでに3300年前から用いられている漢字です。甲骨・金文の文字はまるで絵のような形をしています。言葉でいうと「人が頭に帽子をかぶってひざまずいている形」です。「A」のように描かれているところが、今でいえば神主さんが被る「烏帽子」に似た被り物を表します。その下は、ひざまずいている人の姿です。2200年前の篆文になると、ほぼ現在の字に近い形です。そして、現在の字の中にも帽子がちゃんと残っています。

令・甲骨

令/甲骨3300年前

令/金文3000年前

令・篆文

令/篆文2200年前

では、何のためにこんな恰好をしているのでしょうか。それは、神様にお願い事をして、神様がどのようにお応えしてくださるか、ひざまずいて神様のお告げを聞いている姿なのです。

それは、間違いのない絶対確かな「みことのり、言いつけ」です。そこから、下位の者に対して言いつける「命令」という意味合いを持つようになりました。

併せて、神の御心を「みことのり」として受けたのですから、それは「良い、立派なもの、間違いのないもの」という意味を持つようにもなりました。今回の万葉集の中に出てきた言葉「初春の令月」の「令」は「良い」の意味で用いられていますが、もとは「神のお告げ、言いつけ」を表す上から目線の字でした。それが、次第に「良いもの、立派なもの」を表す字になっていきました。

命・金文

命/金文3000年前

そうすると、「神のお告げ、言いつけ」というもともとの意味を表す字がなくなってしまうので、新たな字が作られました。それが、「命令」の「」という字でした。「命」と「令」の字を見比べると、確かによく似た字です。「令」に「 口・篆文(口)=願い事を入れた器」をつけると「命」になるのです。「命令」の「命」と「令」は、古くは同じ意味を持つ字でした。「命」は「令」の後継として新たに作られた字なのです。

新たに作られた「命」も「命令」の「命」の意味の他に「天から与えられた役割」というような意味を持つようになります。「天命」は天から与えられた役割。「使命」は天から役割を使わされること。「立命」は天から与えられた役割を自覚することの意味で使われます。

さて、「令和」の「」は「なごむ」という意味を持つ「昭和」以来のなじみの字です。最初はなんだか「昭和」にかぶるなと思いましたが、やはり、やわらかい安定感のある字です。

和・金文

和/金文3000年前

「和」の右側の「口」は、ものを食べる「口」ではなく、願い事を入れた器=口・篆文 (さい)の形です。左側は、ふつうは「穀物」を表す「(のぎ)へん」の意味を持つパーツです。しかし、白川先生はこの場合の「()」は軍隊が駐屯する場所の入り口に建てられた軍門を表す字だと言われています。「禾」を二つ並べた「(れき)」という字があり、軍門の形をした字です。戦争が終わって相手国と停戦の約束をする時、この軍門の下で「戦争をやめ平和な状態に戻す」と神に誓う「 口・篆文(さい)」を捧げて、和議を結ぶことが行われました。それを「講和」と言います。「和」はまさに平和を神に誓うことを表す字なのです。それによって「和らぐ、和らげる、和む 和やか」の意味を持つ平和な状態となる、文字通り良い意味です。

「令」は、今は「良い」の意味、和は「平和」を表す字。どちらも、とてもいい字の組み合わせです。そうした思いが現実になるような時代になってくれたらと心から願います。ゆめゆめ「誰かの上からの命令で支配される平和」にだけはしてはいけません。「和やかな平和の続く良き時代」=「令和」となってほしいです。

放送日:2019年4月22日