京都の北西に位置する北野天満宮は、菅原道真をお祀りした神社です。今も「学問の神様」として篤い信仰を集め、「北野の天神さん」として親しまれています。
東風吹かば 匂い起こせよ梅の花 主なしとて春を忘るな
大宰府に流される菅原道真が詠んだこの歌にあるように、梅の花の名所としても名高い場所でもあります。「北野天満宮」の創建は947年と言われています。今から1072年前の平安時代のことです。
その歴史ある「北野の天神さん」の立派な本殿の東側にひっそり建っているのが今回話題にする「竈社」です。本殿をお参りする人は圧倒的に多いですが、この小さな社に詣でる人はごく僅かです。しかし、石の鳥居の中央に古代文字(篆書体)で「竈社」と書かれた立派な扁額が掛かった社です。そこにある梅の古木も味わいがあります。
竈/金文3000年前 |
竈/篆文2200年前 |
「竈」という漢字は現代ではお目にかかることがめったにないので、書くことも読むことも難しいかもしれません。が、漢字が生まれた草創期にはすでにありました。三千年近く前の青銅器にも鋳込まれています。
古く、煮炊きをする人々の生活の煙は煙突を通って天に住む 神のもとへ届けられると信じられていました。年末には一年間の家族の暮らしぶりが煙を通して天の神に報告されると考えられていました。それゆえ、派手な暮らしぶりをした家族は(あったかどうかわかりませんが・・・)年末に神様の怒りに触れないかドキドキものだったかもしれません。そんな古代の竈の力が現代にもあればそわそわする人はさぞかし多いだろうと思われます。金文(青銅器に鋳込まれた文字)の は、竈の上部の空気抜けの穴。下部はよくわからない形ですが、竈の中で激しく燃える炎の形のように見えます。
社/甲骨3300年前 |
社/篆文2200年前 |
「社」の一番古い形は 。「土」という字の最初の形です。土を盛り上げて土地の神様をまつる場所を示します。のち左側に神への供物を載せる台〈テーブル〉である「示」を加えて「社」という字となりました。
竈社は、昔から台所の神様として大切に祀られてきました。「竈」をほとんど目にすることがなくなった現代ではあまり人目を引きませんが、やはり、日々の生活を支える「台所」の神様としてこれから先も大切にしていかないといけない神様だと思います。
ところで、北野の天神さんの「竈社」には、石の鳥居が二つあります。扁額のある大きな鳥居の奥にもう一つ石でできた小さめの鳥居があります。特別変わった鳥居でもないので目を引くことはありませんが、鳥居の裏側の下の方に「明智」と記名されています。
あの「明智光秀」が寄進した鳥居だといわれています。前回に引き続き、ここ北野天満宮にも京都の歴史の奥深さを物語る遺物がさりげなく残っていることになります。北野天満宮に行かれた際には、本殿東側の「竈社」にも、是非足を運んでみてください。
放送日:2019年5月27日
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