刀・甲骨

(刀/甲骨3300年前)

今日、7月12日は「洋食器の日」です。新潟県燕市に事務局がある「日本金属食器工業組合」が制定した日だそうです。洋食器と言えば、ナイフ、フォーク、スプーンがつきものですが、今から3300年前に漢字を生み出した「商(殷)」の国にも青銅で作られた刀(ナイフ)がありました。

殷墟 銅厨刀

殷墟 銅厨刀

写真は、殷墟から発見された青銅の刀(ナイフ)です。取っ手があり、包丁のような形をしています。「刀」という字は、まさにこのナイフの形からできた字です。

刃・篆文

刃/篆文2200年前

」は「刀の刃の部分に光があることを示す形」と白川先生の『常用字解』には説明されています。「刃の部分」の「光」が「、」で表されていますが、「キラッ」と光る「(やいば)」は、アニメチックです。

初・金文

初/金文3000年前

さて、「刀」は物を切るための道具ですが、「衤(ころもへん)」と「刀」とでできた「」は、衣(布)を切る形の字です。

では、衣(布)を切ることが、なぜ「はじめて」の「初」なのでしょうか。

それは、赤ちゃんの誕生と関係しています。赤ちゃんが生まれて最初に行なう儀式が「衣(産着)」を作るために「布」を()つ(切る)ことだったからです。「初」の字に「衤」があるのは、新しい赤ちゃんの誕生に際して最初に行なう特別な「布を裁つ(切る)」儀式のことだったのです。

布を裁つ(切る)刀は写真の刀(ナイフ)よりはずっと小さなものだったかもしれませんが、写真のような立派な刀は「肉」を切り分けるために使われました。

氏・金文

氏/金文3000年前

肉は神様が大好きな食べ物でしたので、祖先の神さまにお願いごとをする大切な「祭りの日」には、神様へのお供え物として捧げられました。お祭が終わった後に一族で行われる共餐(きょうさん)(食事会)でこの肉が切り分けられました。その時に使われた肉を切り分ける取っ手のある刀(ナイフ)の形から生まれた字が「」という字です。その共餐(食事会)で肉を振る舞われる人たちを「氏」と言い、「うじ(氏族)」の意味となりました。肉が配られる範囲の人々が一族であり、一族の一員として認められた人々でした。

師・甲骨

師/甲骨3300年前

この一族郎党が連れ立って旅に出ることがありました。それが、軍隊を組織して「戦い」に出かける時でした。「戦い」に行くときには、祖先の神にお肉を供え、祖先の魂が乗り移ったお肉を乾肉にして、携えていきました。乾したお肉を祖先が自分たちを守ってくれるシンボルとして大切に携えながら軍を進めました。

時に、本隊から部隊を分けて敵を攻めていくことも起こります、その時、分かれた部隊にも、祖先に守ってもらうために肉を持たせることが必要となります。そこで、一族の長老が、刀で肉を分けて持たせる役割を受け持ちます。その役割から生まれた漢字があります。それが、「お師匠さん・教師」という時の「」です。

古い文字を見る方がよくわかりますが、「師」の左側は肉の塊、右側はその肉を切り分ける刀(ナイフ)の形をしています。戦場で肉を切り分ける長老こそ、一族の「知恵袋」であり、若者に様々なことを教え導く先生でもあったのです。それで、「師」は「師匠」とか「先生」という意味で用いられる字となったのでした。

*肉をもって敵軍を討伐するためにおっかけていくことから「追う」という字にも肉が入っています。

今日は7月12日(ナイフ)の日でしたので、「刀(ナイフ)」にまつわる漢字の話をしてみました。

放送日:2021年7月12日