生・金文

木々の葉が美しい季節となりました。京都の街をめぐる山々も、全山萌えでる若葉に包まれ、生命力に満ち溢れています。

想・篆文

想/篆文2200年前

はるか昔、古代中国の人々は、生い茂った木々を見ることで、木々が持つ生命力を取り込み、自分のパワーを高めようとしました。高めたパワーがあれば、遠く離れた人にも思いを届けられると考えました。そこから生まれた字が、木と目と心からなる「」です。木を見ることで、目の前にいない人を思いやり、見えないものを「おもう」=想像する力が得られると考えたのです。たしかに、真新しい若葉に囲まれた道を歩いているといい気持ちに満たされるのも、きっと「木の葉パワー」を取り込んだ心が反応しているのかもしれません。なんだか「元気」が湧いてきます。新緑の季節がやってくると、ついこの漢字が浮かんできます。新しい命の輝きは「生きている」実感を高めます。

生・金文

生/金文3000年前

その「生きている」という字の「」は、草の芽が地面から生え出る様子からできた字です。生まれ出てくる芽吹きの様子を「生」という字の字形に採用するとは、3000年以上前のこととはいえ、作った人たちのセンスのよさを感じます。

ところで、日本語で「いきる」と言いますが、その語源は何でしょうか。白川先生の『字訓』によると、「いきる」の「いき」は呼吸すること。漢字を当てると「気・息」。「生き」と同じ語源(同根)だと書かれています。つまり、「生きる」ということは「息する(呼吸する)」ことなのです。当たり前ですが、なるほどなーと妙に納得します。

では、その「いき」に当てられた漢字「気(音:キ)」と「息(音:ソク 訓:いき)」を取り上げてみます。

気・氣 篆文

気・氣/篆文2200年前

气・甲骨

气/甲骨3300年前

气・金文

气/金文3000前

」のもとの字は「」。一番初めの形は「」。「气」は、雲の流れる姿を三本線で象った形で、雲気を表しました。古代の人々はその雲気こそが生命のおおもとであると考えていました。私たちの地球を取り巻く大気、私たちに活動の気力を与えてくれる元気、あらゆる活動力の源泉が「气」にあると考えていました。人は空気を吸い込んで「生きる」。生きることのすべてのもとは「气」にありました。米(穀類)はその气を養うもとになるものだから、米を加えて「氣」の字ができたと白川先生はおっしゃっています。

息・篆文

息/篆文2200年前

自・甲骨

自/甲骨3300年前

次は「」。「息」は「自」と「心」との組み合わせです。「自」は自分の「自」。「自」は、古代文字(甲骨)を見ると「鼻」の形です。息をするのは鼻ですから、漢字は「いき」を「鼻」で代表させていると言えます。その上で、漢字は心を加えています。

白川先生は、心の状態が鼻息に表れることを示すとおっしゃっています。「鼻息が荒い」といえば、意気込みが激しいとか強気で威勢がよい等の意味で使います。「息まく」と言えば、激しく興奮する心を表します。また、日本語で「いきどおる(憤る)」や「いきおい」等の言葉の「いき」が「息」であれば、怒りや元気な心の状態を示していることになります。他にも、「いきつく」・「いきごむ」・「いきり立つ」など「息」と関係する言葉がいくつもあります。「息」は文字通り「いき」を表す字です。

今日は、若葉の命の輝きにパワーをもらうという話から日本語の「いきる」と「いきする」の「いき」が同じ語源から始まっていること、そしてそれらに当てられている漢字の成り立ちについて話しをしました。「生きる」ことは「気(いき)・息(いき)すること」。言われれば当たり前ですが、そのことばのつながりをじんわりと噛みしめてほしいと思いました。

放送日:2023年5月22日