岸・篆文

先週の木曜日(9月22日)まで東京で白川静パネル展を開催しました。熱心な方々にお会いできて楽しい時間を過ごしましたが、中でも短冊に古代文字で自分の名前を印刷するコーナーは思った以上に好評でした。普段見慣れている自分の名前とは違う字体で自分の名前を眺めると自分のルーツに出合ったような感覚になるのでしょうか。とても喜ばれました。

このコーナーでも以前「光部愛」さんの名前の由来を取り上げたことがありましたが、今回は岸田君の名前の由来を取り上げてみたいと思います。

岸・篆文

岸/篆文2200年前

田・甲骨

田/甲骨3300年前

苗字の「岸田」の「岸」は「山」の下に「(かん)」と「干」があります。(かん)」は山の傾斜面の形、切り立った(がけ)の形。「干」は「ほとり」。もとは下を川が流れる切り立った崖のほとり(あたり)を表す言葉でした。今は海岸や平らな川の「きしべ」なども表します。
「田」は漢字が生まれた一番最初から形も意味も変わらない「生きた化石」のような素晴らしい字です。

「岸田」という苗字は、「岸」が平らな川の岸辺を指すようになってから、その平らな土地の周辺に開かれた「田んぼ」を所有する人(農園の領主・武士等)との関わりで生まれた苗字かもしれません。(もちろん、日本での話ですが・・・)

さて、「岸田敏志」の「敏志」は、漢字の由来から言うと「自分の心の目指す方に向かって一所懸命いそしむ(つとめ励む)」という意味が込められています。

敏・甲骨

敏/甲骨3300年前

敏・篆文

敏/篆文2200年前

」は「毎日」の「毎」と「(のぶん)」との組み合わせです。「敏」の旧字体は「敏・旧字」。「毎」の中に「母」がいます。甲骨の文字を見るとひざまずいている女性(母)の頭に三本のかんざしが飾られ、その横に「手」が添えられた形です。手は「かんざし」を整えている手と考えられます。頭にかんざしをつけた女性がひざまずいてかんざしを整えている様子が表されています。女性(母)は何をしているのでしょうか? ご先祖様を(まつ)る建物(御霊屋・廟)の中で祭りの準備に立ち働いているのです。ご先祖様を祀る準備はかんざしを髪に挿し、化粧をして着飾った女性の仕事でした。香りのついた酒を(ほうき)のように枝分かれした木の先につけ、それをふりまいて建物の中を清めることもしました。それが主婦の「婦」という字です。(掃除をする人ではないのです)。

婦・金文

婦/金文3000年前

「敏」は祭りの準備にいそしむ(つとめ励む)女性(母)が、かんざしを直すしぐさからできた字です。その女性(母)が祭りの準備を手際よく行うので「敏捷」の「敏」のように「すばやい、はやい」の意味となりました。段取りよくてきぱきと仕事をこなすので「さとい、かしこい」という意味も生まれました。のち、「敏」は祖廟で祭りの準備をする女性(母)だけでなく、広く「すばやい、はやい」「さとい、かしこい」の意味で用いられるようになっていきました。

志・篆文

志/篆文2200年前

之・足あと  之・金文

之/足あとの形

「志」はどうでしょう? 「志」は「心が指す方向=こころざし」ということです。「志」の上側=「士」の部分は古い文字では「之(足あと)」の形をしています。まさに歩いていくことを表しています。「心が歩いて行く方向」をいうのです。

敏志=「心の目指す方に向かって一所懸命いそしむ(つとめ励む)」人を指します。そして一所懸命いそしんだその先には何が待っているのでしょうか? 古代文字で示せば、次の字ということになります。

繁・金文

繁/金文3000年前

「繁茂」・「繁盛」・「繁栄」等と用いられる「繁」です。「敏」と「糸」との組み合わせ。一所懸命つとめ励んだ先には必ず木々が生い茂るように大きな枝を広げて「繁茂」、「繁盛」する未来があるということでしょうか。(そうあってほしいです!)
「繁」の古代文字は「髪飾りをつけた女性」にさらに「糸飾り」をつけた形です。髪を「かんざし」だけでなくさらににぎやかに飾る、そんな様子から「繁」の意味が出てきたと考えられます。

放送日:2016年9月25日