お火焚き1

11月(霜月)に入ると京都の町のあちこちの神社・仏閣で「火焚(ひたき)」が行われます。私も23日に「波切不動寺」という不動明王を祭る小さなお寺の「お火焚祭」に行ってきました。

祭りは以下のように進行しました。しめ縄で仕切られた斎場で、山伏姿の行者たちが、ほら貝と念仏、太鼓で、ヒバの葉に覆われた火床に不動明王を招きます。不動明王が天から降りてこられるとヒバの葉に覆われた火床に火をつけます。もうもうと立ち上がる煙の中から火が不動明王の化身となって天に向かって燃え盛ります。その燃え盛る神聖な火の中に願い事を書いた護摩木(ごまき)を参拝者一人一人が放り入れます。火となった不動明王の力で願い事が成就することを祈ります。激しく燃えた火がおさまると、燃えカスの残る火床の上を参拝者が素足になって「火渡り」をします。どこの「火焚祭」でもこのようなことをするわけではありませんが、この不動寺には「火渡り」の儀式が残っています。

お火焚き2

私もドキドキしながら渡りました。足裏に火の燃えカスを直に感じることで、(けが)れ落とす「禊」の儀式として昔から行われてきました。(火傷にならないよう細心の注意が払われています。念のため。)式が終わると、お供え物の「お火焚き饅頭」、「ゆずおこし」、「みかん」をいただきます。紅葉が見頃を迎えるころ、京都の町のあちこちで行われる風物詩です。

さて、前置きが長くなりましたが、今日は「」にまつわる漢字です。

火・甲骨

火/甲骨3300年前

炎・金文

炎/甲骨3300年前

「火」は燃える「ほのお」の様子から生まれた漢字です。その「火」を縦に二つ書くと「炎」です。火が揺らめいて見えます。はるか昔、漢字が生まれた時代から、火は神聖なもので、穢れを落とし、清めの力を持っていると考えられていました。

赤・金文

赤/甲骨3300年前

」という字は、人の正面形である「大」の下に、「火」を加えている形です。火の上に人がいるので火あぶりの刑のように見えますが、そうではなく、神聖な火の上を渡る儀式のように火によって「穢れ」を落としている人の姿を表したものです。「赤」という字はもともと色の赤をいう字ではなく、火焚祭で火の上を渡ったように神聖な火を加えて汚れを祓うことを表す字でした。ですから、人の罪を許すという時の「ご赦免(しゃめん)」という字の「(しゃ)」は赤に(ぼく)がついている形で、汚れを落として「ゆるす」の意味を持っています。

炎からできた漢字

主/甲骨3300年前

主・篆文

主/篆文2200年前

古代の家では火が生活の中心でした。ですから、神聖な火の取り扱いは一家の長の仕事でもありました。「主人」の「」という字は、炎そのものの形から生まれた字です。後に燭台の上に火皿がある現在の形になりました。火によってその地位が象徴されている字です。

光・甲骨1

光/甲骨3300年前

次は「」です。光部さんの「光」は何回も登場しましたが、ひざまずいた人の頭に「火」を載せた形からできている字です。火は神聖なものでしたので、これを取りあつかうものは、聖職者でした。その火を取り扱う特別の一族=部族こそが「光」です。火の起こし方にも長けていた集団です。火の起こし方には、主に3種類ありました。一つは、(きり)状のものをこすって火をおこす「摩擦法」。二つめは火打石を使う打撃法。三つめは鏡を用いて太陽の光をとる光学的な方法でした。(おう)面鏡に光を集めて火を取る方法はずいぶん古くからあったと白川先生はおっしゃっています。お日様の光を集めて火をおこす人々は、魔法使いのように思われたかもしれません。お日様の光を集めると「火」になる、不思議な現象に古代の人々は驚いたに違いありません。

 

最後に江戸時代の蕪村の俳句をひとつ。

御火焚や 霜うつくしき 京の町     蕪村

放送日:2018年11月26日