易・金文

今日(9月9日)は5節句の一つ、重陽の節句です。中国では奇数は縁起のいい数字。陽数とも言います。その縁起の良い奇数が重なる日をお祝いしたのが「節句」の始まりと言われています。

1から10までの中で一番大きい奇数「9」が重なる9月9日は、陽が重なると書いて「重陽」と言います。菊の咲く季節であることから「菊の節句」とも呼ばれました。この日は菊の持つ薬効にちなんで健康や不老長寿を祈願する日となりました。ちなみに、5節句は奇数月の3月3日(桃の節句)、5月5日(端午・菖蒲の節句) 7月7日(七夕・笹の節句)、9月9日そしてもう一つが1月1日ではなく1月7日(人日の節句・七草の節句)と呼ばれています。

菊・篆文

菊/篆文2200年前

さて、重陽の節句と言えば「菊」ですから菊を取り上げたいところですが、すでに今年7月8日放送の祇園祭の山鉾「菊水鉾」を取り上げた回で、「菊」の文字を紹介しました。ですから、今日は「重陽」の「」に関連する字の成り立ちを取り上げてみます。

」の字は、「阝」と(つくり)(右側)の「(ヨウ)」との組み合わせ。部首の部分を「氵」に替えると「お湯」の「」、「 つちへん」にすると「場所」の「」になります。

太陽の「陽」、お湯の「湯」、場所の「場」、この3つの漢字に共通に使われているのは(つくり)(右側)の「」です。

では、この3つの漢字に共通する旁の「昜」はどういう成り立ちでしょうか。

現在の字は「『日』の下に『ー』棒があり、その下に『易・パーツ』」があります。どういう組み合わせなのか、こういう時こそ古い文字が役立ちます。

易・金文

昜/金文3000年前

古代文字の「昜」を見ると、「日」の形になっている部分は「ドーナッツ」のように穴の開いた丸い形をしています。これは、「玉」と呼ばれる宝石の形です(写真参照)。

玉

玉/洛陽博物館

この穴の開いた宝石は、人にパワーを与える、生命力を高める力があると信じられていました。病気になったり、邪悪なものを跳ね返す力がほしい時、身体にこの玉の力を取り込んで、パワーアップを測る儀式を行いました。その儀式が台の上に玉を置いて行われました。台の上の玉は、太陽の光があたると、放射状に光を反射しました。その様子を表したのが「昜」という字です。「日」は玉。その下の「ー」棒は台の板。その下の「易・パーツ」は放射状の光を表しています。

陽・金文

陽/金文3000年前

湯・金文

湯/金文3000年前

場・篆文

場/篆文2200年前

「阝」に「昜」は、神様の降りて来られるはしごの前が、玉の光で輝くことを表します。光り輝くお日様の姿と重ね「太陽」の字に使われました。

「氵」に「昜」は、光を発する玉のように輝く太陽の熱で水が暖められることを表す字に使われました。「お湯」です。

台の上に玉を置いてパワーを高める儀式が行われる所が「 つちへん」に「昜」と書く「場所」の「場」という字です。

傷・篆文

傷/篆文2200年前

「陽」が光り輝く明るい世界をイメージするのに対してそれを衰えさせる力が働くときがあります。それがこの「昜」にふたをして光を(さえぎ)ってしまう時です。パワーを減速させ、生命力を弱めることを表します。

それが、「」という字です。人のエネルギーを弱めることを表します。今は外傷をいう字になっていますが、もともとは心のパワーを失わせること「心に傷を負う」という時に使う字でした。

「重陽」という字が「陽」を重ねると書くので、どれだけパワーを強める日(節句)なのか、理解していただけたでしょうか。その仲間に「湯」や「場」がありました。しかし、その反対側に、「傷」もあることを漢字は教えてくれます。傷という字が光り輝く「昜」にふたをした字だとわかると心のパワーを失わせる「きず」の意味がよりリアルに伝わるような気がします。

パワーを高める縁起のいい日は同時にパワーを失わせることにもなりかねません。だからこそ、「節句」の日はパワーを高める儀式と共に悪霊退散の儀式も併せて行なわれていました。

放送日:2019年9月9日