夕暮れとともに、一斉にライトアップされる紅葉が照らし出されます。京都は錦秋の季節を迎えました。日に輝く紅葉も美しいですが、暗闇に照らし出される夜の紅葉もひときわ美しいです。
今回は夜の紅葉を一層引き立てる「暗闇」の話です。「暗闇」の暗いという字と闇という字はともに不思議な字です。物音ひとつしないシーンと静まり返った「暗闇」の世界に「音」があります。なぜでしょうか。
音/金文3000年前 |
言/甲骨3300年前 |
その理由を「音」の字の成り立ちから考えてみます。
「音」は、「言」と「一」との組み合わせからできた字です。「音」と「言」との古代文字を比較するとほぼ同じ形からできています。「音」の口の中には「一」があります。今は「言」があることさえわからなくなってしまいましたが、「言」は神への願いの言葉を表します。その願いの言葉に対して、神が反応するのが真夜中の静かな時でした。かすかな音をたてて反応するのです。そのかすかな音の響きは願い事を入れた器=口( さい)の中に「一」を書いて示されます。
暗/篆文2200年前 |
闇/篆文2200年前 |
「音」は神の「音連れ」であり、音を連れて示される神のお告げでした。
それで、「暗闇」に「音」がある理由はもうお分かりでしょう。夜中の暗闇の中に神が「音連れる」のですから「暗」という字にも「闇」という字にも「音」が入っているのです。
「闇」の中の「門」は神をお祀りする社の両開きの扉です。そのお社に神がかすかな音を立ててやってくるその時こそが「暗闇」なのです。
では、神はどのように音を立ててやってくるのでしょうか。それはもう知るすべがないのですが、推測はできます。そのカギを握るのが「鈴」です。
鈴/金文3000年前 |
令/甲骨3300年前 |
鈴は「金へん」に令和の「令」です。「令」の古代文字は「深い帽子をかぶった人がひざまずいている姿」からできた字です。神様のお告げを聞いている人を表します。そのお告げを聞く人の前に願い事を入れた器=口( さい)を置くと「命令」の「命」になります。使命とか天命と使う字です。
「鈴」は命を下す神様をお呼びする大切なアイテムでした。鈴を鳴らして神を呼ぶのは、現在でも神社の本殿の前にある綱の付いた鈴を鳴らすのと一緒です。古代の人々も、神の音連れ(訪れ)を吊るしてある「鈴」の音で聞き取っていたかもしれません。
例えば、建物の四隅に鈴が吊るされています。真夜中、風と共に降りてくる神がどれかの鈴を鳴らします。東西南北にあるどの鈴が鳴らされたかということで神の意向を聞き取ります。神はそうして、音を連れて、訪れたのです。
その鈴からできた字があります。今でも神社の巫女さんが鈴をもって舞いを行う儀式があります。あの時に手に持つ鈴からできた字です。
楽/金文3000年前 |
薬/篆文2200年前 |
それが「楽しい」という時の「樂・楽」です。古代文字を見ると木の取っ手の上に鈴がついています。その鈴を鳴らして楽しそうに舞う巫女さんの姿に「神」が誘われて降りてくるのです。だから、その時の舞いを「御神楽」と呼びます。
そして、煎じて飲むと病を治してくれる草(植物)、身体を楽にしてくれる草(植物)=「薬草」と言いました。
今回は、暗闇という字に潜む「音」のいわれをお話ししました。そのいわれがわかれば、日本の祭りの中に夕方から夜中にかけて行なわれる祭がいろいろあることの意味も分かってもらえるかと思います。
まもなく新たな年を迎えます。初詣も真夜中に神社に出かける行事です。年の始めは真夜中に神社を詣でる古くからの風習を今も行っているのです。
新しい年、神社に参拝された折には、心を込めて鈴を鳴らしてみてください。あなたの願い事を聞き届けてくれる神様が天から降りてきてくれるかもしれませんから。
放送日:2019年11月25日
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