「今年の漢字」は私の一押しの「和」ではありませんでしたが、第1位が「令」、第2位が「新」、第3位が「和」でしたので、とりあえず良しとしておきます。考えてみれば、少し時間が経って振り返った時、2019年は「令和」になった年だったなとわかるのは、「令」の方でしたね。他の年にはまず選ばれそうにありませんから。読みが甘かったです。
ということで、今年の漢字に「令」が選ばれましたので、今年の最後も、その「令」にこだわることにします。
令/甲骨3300年前 |
命/金文3000年前 |
「令」は深い帽子をかぶり、ひざまずいて神のお告げを聞いている人の形からできた字です。その「令」に願い事を入れた器= (さい)を加えると「命」という字になります。実は、「令」も「命」も、もとは同じ意味を持つ字でした。神様のお告げは、間違いのない絶対の声でしたから「命令」という逆らえない上から目線の熟語も生まれました。
その後、神様のお告げを聞く人の姿=「令」の字の入ったいろんな漢字が生まれました。
鈴/金文3000年前 |
伶/篆文2200年前 |
一つ目は「鈴」。神様へのお願いごとをする日に、神様をお呼びするのが「鈴」でした。「鈴の音」に誘われて神様は降下し、祭りが終わると再び「鈴の音」に送られて帰って行かれました。「鈴」は神を呼び出し、見送りをする力を持つ楽器でした。「呼び鈴」と使う時の「りん」という音は鈴の音色から来ています。
その儀式を取り行う人を「 (にんべん)」に「令」と書いて「伶」。「伶人」と言いました。「伶人」は、後に音楽・舞楽を演奏する「楽人」のことを言うようになります。
聆/篆文2200年前 |
齢/篆文2200年前 |
神様の声を丁寧に聞き、耳ざとくそのお告げの意味を理解できる人を「耳へん」に「令」と書いて「聆人」といいました。耳のいい賢い人のことでした。
「年齢」という時の「齢」の中にも「令」が入っています。今は簡潔に「年令」と「歯」を抜いた形で書いたりします。では、なぜ、年齢の「齢」に「令」が入っているのでしょうか。「令」が神様のお告げを聞くことだからです。人の齢(寿命)が長いか短いかは誰にもわかりません、神様がお決めになることだと考えられていたからです。
領/篆文2200年前 |
冷/篆文2200年前 |
次は「令」の字が左側にある字です。「領地」という時の「領」です。「領」は、神様のお告げを聞いている人を横から見た形です。右側の「頁」は神を拝む人の姿です。頭を下げてお告げを聞いている人の「くび、うなじ、えりくび」を表します。「くび、うなじ」は、腰(要)とともに体を支える最も大切な場所ですから、「要領(物事の最も大切なところ)」という熟語もできました。
同時に、神様のお告げを聞く人であることから「リーダー」の意味も持ちました。「大統領、首領、領袖」などのように、「まとめる、おさめる、かしら」等の意味に用いられるようになります。そして、その人が「おさめる」土地を「領地」と言いました。
最後に、寒い季節にぴったりの漢字です。「つめたい」の「冷」です。「令」という字が入っていますが、この字の中の「令」は、意味を持たない「音」だけの役割で用いられています。意味を表すのは左側の「にすい」の方で、氷の塊を表しています。「冷たい」の意味は、その氷の塊が担っています。
「令」の入っている漢字は、意外に多いです。「鈴」・「伶」・「聆」・「齢」・「領」など神様のお告げを聞く意味から生まれた漢字が多いですが、「レイ」という音を表す「冷」のような漢字もあります。他に、「零」・「嶺」・「玲」・「怜」・「囹」・「羚」・・・があります。
今年の漢字は「令」で締めくくりです。神様の声に耳を傾ける人の姿から生まれた「令」という字には、人間の世界を超えた自然の声に謙虚に耳を傾ける人々の姿が重なります。「令」を選んだ今年こそ、持続可能な世界を未来に残していくための最初の一歩にしたいです。
今年1年、私の拙い話に耳を傾けていただきありがとうございました。来年が幸多い年になりますようにお祈り申し上げます。
放送日:2019年12月23日
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