豪・篆書

京都は、例年なら祇園祭の「鉾立て」が終わり、いよいよ巡行を迎えるばかり、そんな当たり前の7月2週目の風景が、今年は、コロナと雨にかき消されてしまいました。

じわじわとまた増え始めているコロナの感染も気になりますが、日本上空に居座り続け、大きな災害をもたらしている梅雨前線の行方も気がかりです。

そんな、「災害」にまつわる漢字を、今回は取り上げてみます。

最初は、「災害」という字のおさらいから。(2018年7月の「第95回ラジオ」でも取り上げました。)

災・篆文

災/篆文2200年前

害・金文

害/金文3000年前

「災害」の「」は、二つの「わざわい」の組み合わせです。一つは「の災い」。もう一つが、「の災い」です。

災・パーツ3」は「水の流れ(川)」です。古い文字(篆文)では、「災・パーツ4 」=水の流れの真ん中に「-」が入っており、水流が塞がれ、流れが変えられていることを表わしています。まさに「洪水」の発生を表わす字です。

3000年以上前の古代中国の人々にとっても、「火」と「水」は大きな「わざわい」のもととして恐れていました。

では、「災害」の「」は何でしょうか。「害」は、取っ手のついた大きな針( 害・パーツ)で願い事を入れた器(口)= 口・篆文(さい)を上から突き刺している形をしています。「害」とは、器に入れた大事な願い事を突き刺してつぶそうとすることです。

大きな針だけでは足りず、さらにナイフを加えて壊そうとする字が、「害」に「刂(りっとう)」をつけた「」です。器を割って願い事を台無しにしてしまおうとするのです。「害」も「割」も「願い事」を壊す恐ろしい字なのです。ですから、「災害」と「わざわい」をもたらす字が二つも重なれば、よほどの悪いことが起こるという字になるのです。

豪・篆書

豪/篆文2200年前

次は、災害をもたらした「豪雨」の「」です。

豪雨は「ものすごい雨」という意味ですが、「豪快」、「酒豪」、「豪華」、「豪傑」のようにも用います。「ものすごい、大きい、強い、ぜいたく、優れている」など「抜きんでている」という意味で用いられています。では、いったいどこからその「抜きんでているすごさ」は生まれるのでしょうか。

それは、この字の中に「強い動物」が隠れているからです。豪という字の中には、「豚」という字の右側((つくり))の字=「()」が入っています。「豕」は「毛深い動物の姿」からできた字です。そして、「豕」の上側には「高」という字の省略形(高・パーツ)があります。

つまり、「背の高い毛むくじゃらの動物」です。その動物が、実際どんな動物だったのか、現在まで伝わっていませんが、シロクマかヒグマが仁王立ちした姿を想像してしまいます。「強くて毛深い動物」、それが「豪」でした。この動物が空で大暴れして「豪雨」を降らしているのです。

決・篆文

決/篆文 2200年前

*「(けつ)」の初文は「階」。篆文には「階」が書かれている。

最後に、川が「決壊」するの「」です。

「氵」と「(けつ)」との組み合わせです。「夬」は、刃物(「欠けた玉」という人もいます)でものを切ることを表わす字。「てへん」をつけると「(えぐ)る」という字になります。

はるか昔、川が増水し、堤防を越えて水があふれそうになった時、大きな被害を防ぐために、堤防をわざと切って、川の流れを変えることがありました。「決」はその堤防を「切る」ことを表わす字でした。万が一のことを考えれば、それはとても危険を伴う重大な判断でした。それだからこそ、その重く、大きな判断をおこなうことを「決断」と言うようになりました。

後、「決」は「決心」のように、広く「強く心にきめる」という意味合いで用いられるようになりましたが、もともとは、川を切る決断をすることから始まった字なので「氵」がついているのです。

さて、日本列島を横切っている梅雨前線が、一体いつまで本州に居座り続けるのかわかりませんが、早く、太平洋高気圧が勢力を拡大して、梅雨前線を押し上げて消滅させてくれることを祈るばかりです。これ以上、日本列島が大きな災害に見舞われませんように。

放送日:2020年7月13日