密・金文

今日は「今年の漢字」の発表日です(※今回の放送日は12月14日でした)。

今年は新型コロナの感染拡大に翻弄された1年でしたから、明るい漢字にはなりにくいかもしれませんが、私の予想は以下の通りです。

第1候補は「」です。今年は病気の「わざわい」に振り回された1年でしたから、「わざわい」はわざわいでも、自然災害の「災」ではなく、「コロナ禍」と言われ続けた「禍」という字を取り上げてみました。

禍・篆文

禍/篆文2200年前

「禍」は「ネ(しめすへん)」と「咼(か)」との組み合わせです。「ネ」は神様へのお供え物を置く台(テーブル)」。「咼」は「亡くなった人の上半身の残骨」に「願い事を入れた器=口(さい)」を添えた形です。(わざわい)(はら)うために神に祈る儀式を表わしています。

病気のような得体の知れない恐ろしい「魔」は、死んだ人の頭部や胸部の骨の力によってもたらされると考えられていました。それを追い払う儀式が「禍」でした。「わざわい」というと悪者のように思いますが、本来は「わざわい」を鎮めるための字でした。これが私の選んだ一押しの漢字ですが、病気に関する漢字には、他に「疫病」の「疫」も可能性があります。

さて、第1候補は病気そのものに焦点を当てた候補でしたが、第2の候補はその周辺から生まれた字です。その筆頭は「」です。「三密」(「密閉」・「密集」・「密接」)は、今年の流行語大賞にもなりました。

密・金文

密/金文3000年前

密・篆文

密/篆文2200年前

「密」は「宀(うかんむり)」と「必」と「山」との組み合わせです。「宀」は祖先を祭る建物の屋根の形。「必」は兵器の(ほこ)(この場合は祭祀用の戈)。「山」は山ではなく、実は「火」の形です。「火」が「山」とそっくりの字だったので間違って使われました。

祖先を祭る建物の中で、戈を火で清め、祖先の霊の安寧(やすらかなること)を求める儀礼を「密」と言いました。その儀礼はひそかに厳かに行われたので、「ひそか、やすらか、こまかい」等の意味に用いられるようになりました。

コロナ関連の字で言えば、「密」の他に、自粛の「粛」、ソーシャルディスタンスの「離」。ステイホームの「家」、「耐える」の「耐」なども候補になるかもしれません。

最後に少し角度を変えた候補を挙げます。今年は、新型コロナの感染拡大のことが頭から離れないので、コロナ関連の字へと気持ちは向きますが、このような事態になったからこそ、これまで当たり前だった生活や仕事の在り方をチェンジするきっかけともなりました。リモートでの仕事やオンライン授業など社会全体で新しい改革の動きが始まったのも今年です。そう考えると、新しい生活様式への切り替えを迫られた1年でした。

ですから、何年か経って振り返ると、新しい時代へのターニングポイントになった年として記憶されるかもしれません。社会のあちこちで新しい芽が生まれた年という思いを込めて「」という字も考えられるかもしれません。 新型コロナ。新しい生活様式。新しい働き方、新しい学び・・・いろんな「新」が生まれた年だったからです。

新・金文

新/金文3000年前

「新」は「辛」と「木」と「斤」を組み合わせた字です。亡くなった親の位牌を作るために「辛(取っ手のついた大きな針)」を投げて木を選ぶ儀式がありました。大きな針が当たった木を(おの)で切ることを「新」といいました。神の意向で選ばれた木を新しく切り出すことで「あたらしい、はじめ」の意味となりました。その新しく作った位牌を拝んでいる(見ている)様子が「親」という字です。位牌を作った後に残った木は「薪」として「火祭り」の際に使われました。新・親・薪は一連の字です。

さて、さて、どの字となっているか、楽しみです!

放送日:2020年12月14日