髪・金文

今日のアフパラのテーマが「髪型変遷」でしたので、「」にまつわる漢字を取り上げてみます。

漢字の中には「髪」がモチーフに作られた漢字がいくつかあります。

長・甲骨

長/甲骨3300年前

最初は、「」です。「長」の古代文字(甲骨)は、髪の長い人が杖をもって横向きに立っている形から生まれた字です。頭から上に突き出した2本の線が、長い髪を表しています。その人は誰か、その人は一族を代表する長老でした。今は「ながい」ものは皆「長」で表しますが、もとは「長い髪を持つ長老」を表しました。そういう目で見ると、「長」の上側の横棒は、なびいている髪の毛のように見えてきませんか。

老・甲骨

老/甲骨3300年前

孝・金文

孝/金文3000年前

次は老人の「」です。「長老」が長い髪を持っている老人なら、「老」も古代文字で確かめてみる必要がありそうです。「老」は「おいがしら 」と「匕」との組み合わせ。「 おいがしら」は「おいがしら」という部首になっているところです。年を取っている人=老人を表します。古代文字(甲骨)を見ると「長」と同じように杖を持った髪の長い人の姿をしています。髪の長い人=老人を示します。下側の「匕」は「化ける」の「化」の右側の「匕」と一緒です。人が逆さになっている形で、長く生きている間に容貌が変化していくことを表します。確かに長く生きていれば、容姿も変化していきます。従って、「老」は「おいがしら」という部首の名前の通り「人生のしわを刻んだ髪の長い老人」を表しています。

その「 おいがしら」を持つ漢字にもう一つ、「親孝行」の「」があります。古代文字(金文)を見ると、横向きの人の頭の部分に長い髪の毛がたくさんあることがわかります。この字にも「髪の長い老人」がいます。その老人の下に「子ども」がいます。老人が子どもを慈しんでいるようにも、子どもが老人に仕えているようにも見えます。それで、子どもが年老いた人を大切にする姿として「孝行(親おもい・年長者によくつかえる)」という意味を持つようになるんですね。

それにしても、「長」・「老」・「孝」にある「老人」のシンボルが「長い髪」というのは現代的には少し違和感があります。現代では、老人は、髪が薄くなり、次第になくなるのが常ですから。

しかし、今から3000年以上前の時代を思い浮かべてみてください。現代より明らかに平均寿命は短かったのです。老人が髪の毛が薄くなるまで生きられるようになるのは、つい最近のことです。あの松尾芭蕉でさえも、30代の自分のことを「老人」と呼んでいます。古代中国では老人しか髪を長く伸ばすことが許されてなかったとも言われています。年をとればとるほど長い髪を持つ人だったのです。髪を背中まで伸ばした仙人のような老人が一族の知恵袋として尊敬を集めていたに違いありません。その老人の髪の長さが「長老」・「老人」のシンボルとなったとしても不思議ではありませんでした。

髪・金文

髪/金文3000年前

最後に、「」という字の成り立ちを紹介します。

すでに見てきたように、「髪」には「長い」という字が入っています。老人の長髪を表します。その横に「彡(さん)」があります。「彡」は色や形が美しいことを示す記号のような文字です。長髪の美しさを示します。

そして、その下に「友」という字があります。「髪はなが~いお友達」というコマーシャルがありましたが、そうではありません。「友」なら手と手を重ねる形( 友・パーツ )で表されるのですが、古代文字を見ると「友」ではなく、「犬」の形犬・パーツ)をしているのです。この字は「(はつ)」と言います。友に似ていますが、神に捧げられた「犬」のことを言います。ただ、この字の場合は意味ではなく「音」を表すために用いられています。「犮」のここでの役割は、「髪」を「ハツ」と音読みしなさいと指示することです。ですから、「髪」は「ハツ」と読み、「長髪の美しさ」を表す意味は上側の部分髪・パーツ)が担っていることになります。

今日は「髪型」にヒントをもらって「髪」にまつわる漢字を探してみました。

放送日:2021年10月11日