金・金文

今日(放送日:12月13日)は、京都の清水寺で「今年の漢字」が発表される日と重なりました。毎年、このラジオでも、12月最初の放送日は、私なりの「今年の漢字予想」を恒例にしています。

すでに、2時間前に結果が出ているので、今年はその結果と私の予想の漢字の話をします。

といっても、ここ2回のオリンピックイヤーの年(2012年・2016年)には「金」という字が選ばれています。やはり、日本選手の活躍がその年の中で最も印象に残っているからです。というわけで、ジンクスに従えば、今年も「金」が本命ということになるのかもしれませんが、コロナ禍での特別なオリンピックでしたから、その通りになるか注目していました。

結果はどうなったか。清水寺の「今年の漢字」の発表に先立って、予想を立ててみました。以下が予想です。

金・金文

金/金文3300年前

これまでのジンクスから言えば、「金」は本命ではずせません。確かに、今年はオリンピックの自国開催、しかも過去最高の金メダル数など、若い選手の活躍とともに心に刻まれてもよい大会でした。しかし、コロナ禍での無観客の開催、第5波の真っただ中での開催等など、メダルラッシュに喜んでばかりはいられない状況でしたので、素直に「金」とはいかないかもしれません。ただ、海の向こうでは大谷翔平選手がアリーグMVPをはじめ受賞ラッシュの金字塔を打ち立ててくれましたし、コロナ給付金、政治とカネの問題など「かね」としての「金」は、1年中話題となりました。オリンピックだけではない「金」の意味も込めて、やはり本命になりうると思っています。

ただ、今年はコロナ禍といっても、昨年とは違って光が見えた年でもありました。ワクチン接種が行われ、昨年と比べれば、コロナ感染への恐れはだいぶ治まりましたし、罹っても重症化しないという安心感を得ることもできました。今また新たな変異株が出てきていますので、手放しでは喜べませんが、希望は見えてきたように思います。それを「あかるい」の「」で表したい気持ちです。

明・甲骨

明/甲骨3300年前

明

明/金文3000年前

明は「日」と「月」との組み合わせでできた字です。お日様とお月様ともに明るいからと習った方も多いかもしれませんが、古い文字(甲骨・金文)を見ると、明・パーツ1 は「月」ですが、明・パーツ2 はお日様ではありません。 明・パーツ2 は、家の窓だと言われています。確かに、明・パーツ2 の中には区切りのようなものがあります。

窓と月。暗い夜、家の窓に月の光が差し込んでいる光景から「明」という字はできました。暗いこの世の窓に一筋の光が差し込んでいる。まさに、今年の社会状況を表す字にふさわしいと思いました。ですから、今年の私の中での「いち押し」は、「明」という字です。ただ、今話をした「明」の成り立ちがわかっていないと、何が「明るい」だと言われそうですが。

忍・金文

忍/金文3000年前

それでは、無難な候補を挙げるとすると、「」です。少し明るい兆しはありましたが、今年も昨年同様我慢の年でした。忍耐強くトンネルの出口が見えるのを待つそんな心境でした。それで、「たえる、しのぶ、がまんする」の意味を持つ「忍」はふさわしい1字だと思いました。「忍」は「刃」と「心」との組み合わせ。心が入っているので人の気持ちを表す字です。「たえる、しのぶ、がまんする」は心の状態です。

ではどうしてそんな意味を持つようになったのでしょうか。白川先生によると、「忍」は靭帯(骨と骨を結びつける強い繊維の束)と関係があり、その強靭(しなやかで強いこと)の意味を人の心の上に移して、「たえる、しのぶ、がまんする」の意味となったと解説されています。足の靭帯が切れると言いますが、足の靭帯が我慢の限界を超えたということなのでしょうね。確かに「靭帯」の「靭」は「革」に「刃」と書きます。昔、床屋さんは剃刀(かみそり)の刃を研ぐのに長い皮を使っていました。あのしなやかな皮を想像すれば「靭帯」のしなやかな強さはイメージできます。ということで、「忍」は成り立ちから言ってもしなやかで強靭な字なのです。今年1年粘り強く耐えましたから、来年はもっと明るい年になるはずです。

輪・篆文

輪/篆文2200年前

その他、「五輪」の「」も浮かびました。オリンピックだけでなく、様々なつながりをオンラインで行なう。「リモートワーク」や「リモート授業」などが当たり前の時代になってきました。そんな新しい「輪」も生まれてきたので、「輪」もありかと思います。

皆さんの予想は当たりましたか。結果は「」でしたが、私の中では「」・「」・「」でした。来年こそは、さらに前向きな気持ちとなれる字が選ばれますように。

放送日:2021年12月13日