月

今回の放送日は、旧暦の8月15日。その夜の月のことを「中(仲)秋の名月」と呼びます。この日に月を愛でる風習は、古く平安時代に中国からもたらされたといわれています。

中国では今でも「仲秋節」といって、国民の祝日となっているそうです。
「中(仲)秋」という言い方の「ちゅう」は、「真ん中」の意味を持つ「中(なか)」、兄弟の「真ん中」(次兄)を表す「にんべん」をつけた「仲(なか)」、両方の字を用います。

「中(仲)秋」とは「秋の真ん中」をさします。旧暦(太陰暦)では、秋は7月・8月・9月の三ヶ月。その真ん中の月、8月をさします。ちなみに他の季節でも仲春(2月)、仲夏(5月)、仲冬(11月)といいます。その一年の中で月が最も美しい季節が「仲秋」ということで、「名月」と名づけられました。

月々に 月見る月は多けれど 月見る月は この月の月 (詠み人知らず)

 

」という字の古代文字は月。三日月の中に短い棒線をつけた形。月は満ち欠けをするので、三日月で代表させました。

太陽を表す「」は日。太陽は満ち欠けがないので○で代表させました。ともに、短い棒線があるのは、中が空っぽではないこと、実体があることを示しています。

ところで、月という字が作られた頃、夕暮れの「夕」という字も生まれました。二つは形がとてもよく似ていたので、区別する必要が出てきました。そこで、月には棒線を二つにして現在の「月」の字の形としたのです。

 夕(三日月の形に短い棒線をつけた形。月と似ている)

さて、空にかかる「月」を要素(パーツ)に持つ漢字を二つ上げられますか。ちなみに、二つとも「小学校2年生」で習う漢字です。

答え。明と朝

・・・右側は月。左側は何でしょう。学校では日の光、月の光がさすと「明るい」と習ったかもしれません。だから、普通はお日様の「日」と考えるのですが、古い文字を見ると左の「日」はお日様の日ではないのです。古い文字は、

明明2 こんなふうに書かれています。(○のなかに、短い線が真ん中にむけて三本あります。あるいは、○の中を三つの曲線で区切ったような字もあります)

明らかにお日様とは違います。白川静先生はいろんな用例を調べて、これは「窓」だと考えました。窓に(さん)のようなものがある形。その窓辺から月明かりが入ってくる様子、その明るい様子を「明」というと。当時の家は半地下形式の横穴式住居でした。その住居にあけられた窓(土をくりぬいた窓)に月明かりがさしこんでいる様子を表しています(そうした窓辺こそ神聖な場所だと考えて神様をお祭りする場所としていました)。

・・・右側は月。左側は何でしょう。漢数字の「十」の下に「日」その下にまた「十」。日はお日様と推測できますが、「十」はなんでしょうか。古い文字を見るとわかります。

朝1  朝2

古い文字では、朝の「十」は「草」を表しています。十は「草」なのです。草と草との間からお日様が上がってくる様子を描いています。右側の月は西にある残月。東から草の間をぬって太陽が昇り、西を見入れば月が白く残っている朝の風景を表しています。それが「朝」という字です。

(朝はとっても大切な時間で、宮廷では、国の大切な物事を決める政務が執り行われました。それで、「朝廷」ということばができたのです)

今日は、晴れてくれれば、文字通り中秋の名月を観賞できますが、雲が多かったり雨が降ったりしたら台無しです。でも、昔の人はそんな日でもちゃんと雲や雨に隠れた夜の月を味わいました。

雲に隠れて見えない月を「無月(むげつ)」、雨で見えない月を「雨月(うげつ)」と呼んで、見えない名月を想像力で愛でたのでした。

放送日:2014年9月8日

古代文字

月(月)金文  日(日)金文

夕(夕)甲骨

明 明2(明)金文

朝1(朝)甲骨   朝2(朝)金文