秋(甲骨1)

秋という字は「のぎへん」に「Fire=火」と書きます。でも、なぜ秋という字に「火」があるのか疑問に思ったことはありませんか。秋に「火」がある理由を考えてみてください。

ある漢和辞典には「もの皆熟し始めるとき」を表すからと書かれていました。熟すことと火がどうつながっているのか、つい柿の熟すのや紅葉の葉っぱを思い出したりするので赤色とイメージがつながったりするのですが、火である説明にはなっていません。

そこで、秋という字の古い文字を調べてみると意外なことがわかります。

〈秋の字の変化〉

秋の変遷

現在の秋の字には省略されたパーツ〈部品〉があったのです。そのパーツは「触覚のある虫」のような形をしています。つまり、秋の字は本来「のぎへん」+「虫の形」+「火」の三つの要素で出来ていた字だったのです。その中から「虫の形」が抜け落ちて現在の姿になったのでした。

ということで抜け落ちた「虫の形」と「火」と「のぎへん」で理由を考えることになります。

のぎへんは稲などの穀物をさします。苗を植えてから世話をして無事収穫の時期を迎えます。田には収穫間近の稲の穂がたわわに実をつけています。しかし油断出来ません。収穫前に根こそぎ食べつくしてしまう恐ろしい敵の出現に気をつけなければならないからです。それが、触覚のある虫です。何という虫か。「(いなご)」です。(トノサマバッタの種類です)

蝗が大群として押し寄せ、食い尽くされたら、せっかくの稲の収穫は水の泡です。なんとしてもこの害から稲を守る対策を考えなければなりませんでした。

それが、この蝗を捕まえて火で焼き殺す儀式を行うことでした。(今の私たちにはこんなことで害が防げるとは思えませんが、見せしめをして他の虫を怖がらせようとしたのです)

間に合わないようなときは、火をたいていぶるようにしてその被害を防いだかもしれません。

稲の収穫の時期に、豊かな実りを手にいれるために、蝗の害に火をたいて立ち向かう。それが「秋」という季節の重要な行事だったのです。

日本のような島国では大量の「蝗、トノサマバッタ」が発生することは、有史以来ほとんどなかったようです。だから、その恐ろしさは実感できませんが、大陸の中国では漢字が生まれた頃の甲骨文字の中にもこの蝗の被害の記述があります。

中国では、水害、ひでり、そして蝗の害(=こうがい)が三大災害の扱いを受けているくらいです。今でもアメリカや中国では、時々天を埋め尽くすような蝗の被害に遭遇することがあるのです。その恐ろしい蝗に、古代中国の人々は火で焼いて激しく抵抗しようと考えたのでした。しかし、それではなかなか太刀打ちすることが出来なかったでしょう。

時の皇帝にとって、この蝗の害をいかに防ぐかに皇帝の命がかかっているというので、「いなご」という字は「虫偏」に「皇帝の皇」という字を当てているという説まででてくるくらい大変な出来事だったのです。

秋は実りの秋というけれど、こうした害虫との戦いの果てにもたらされているのです。

秋という字の中にこんなドラマが隠されていたことを知ってもらえればと思います。

放送日:2014年10月6日