今年最初の「漢字成り立ち教室」のテーマは「羊」です。
今年はひつじ年ですから、漢字の世界で「羊」がどのように扱われているのか取り上げてみようと思います。
「羊」という字が入っている漢字をどのくらい思いつくでしょうか。
- 太平洋の「洋」
- 新鮮の「鮮」
- むれをつくるの「群」
- くわしく話すの「詳」
- 発達の「達」、等など・・・
少し変形した形の物も入れると中学三年生までにおよそ12字習います。同じパーツが入っている漢字としては多い方です。漢字を生み出した古代の人びとにとって「羊」がとても大切な動物だったことを示します。
さて、羊という字は「羊の上半身を正面から見た形」から生まれました。二つの伸びた角が強調された形です。現在の字でも角の形が上の「てん、てん」として残っています。
羊は「神様への捧げもの」として大切な儀式に使われました。神様への捧げものとして使う羊は「立派で大きな」羊だったので、「羊に大」と書いて「美しい」という字を生み出しました。美は「成熟した立派な大人の羊の全身形」です。その立派な羊こそ「うつくしい」ものだったのです。のちすべて「美しい」ものを表す字となりました。
また、羊は「神さまのお使い」としての役割も果たしました。神様の声(意思)を伝えてくれる動物として裁判の時に用いられました。
古代の中国にはすでに「裁判」がありました。土地の境界などで双方が譲らず裁判になることがありました。しかし、その裁判の方法は現代と違って「神さま」に判断してもらう「神判」という方法でした。それは次のような方法で行われました。
訴える人(原告)と訴えられる人(被告)が神様の前に羊を一頭ずつ連れてきます。そして、自分が正しいことを主張するのです。その主張を聞いて神様が羊を使って判断するわけです。詳しい方法はわかりませんが、二匹の羊を戦わせて勝ったほうが正しい主張をしているとか、訴えている最中にどちらかの羊が暴れ始めたり、体を摺り寄せてきたりしたらその羊の持ち主が負けだとか、とにかく神様の意思が羊に乗り移って判断する=羊神判という方法で行われていました。その判断に用いられたのが羊でした。
そこから生まれた漢字があります。その字の古い形を見ると、羊を真ん中に書いてその羊の左右に「言語」の「言」という字を書きました。二つの「言」は原告と被告それぞれの主張を表し、真ん中の羊が判断するという、裁判の在り方そのものを表しています。
現在は羊の下の「言」を省略した形となっていますが、その字は善悪の善という字です。善悪の善は、神様の前で裁判をして勝ったことを指します。それは正しいと判断されたことなので、良いこと=「善」なのです。確かにこの字の中にも羊がいます。
善の中に羊がいたことに気づかれていましたか。「善」という字は羊が古い時代に裁判に 用いられたことを示す一つの証拠となる漢字なのです。
「羊」という字が「美」とか「善」というように、良いイメージの字として使われるのは、漢字を生み出した人々にとって、羊がとても大事な役割を果たす動物だったからなのです。
最後にもう一つめでたい字を紹介します。裁判で勝った人は「さいわい、めでたい」ということから、「しめすへん」に「羊」と書いて、「祥」という字ができました。神様の前で勝利したことを示します。今ではめでたいことの前兆を表す「吉祥」の「祥」=「きざし」等の意味で使われますが、この字も「羊裁判」で勝利した「めでたい」字として生まれたのでした。
どうか、皆様にとって今年が吉祥=幸いの訪れる年になりますように、お祈り申し上げます。
放送日:2015年1月5日
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