酒の神様として知られる松尾大社を訪ねたとき、境内の参道わきにある小さな酒造り資料館に置かれてあるこの酒壺を見つけた。この壺の形は酒のもとの字である酉の古代文字の形にそっくりだった。こんなに大きなものでなかったとしても、このような形の酒を入れる器が酒のもとの字となった。酉が干支の「酉」の意味で使われるようになって、「さんずい」を付けた酒の字が新たに作られた。
酒は神様へのお供え物として三千年以上の歴史がある。香りのよい酒は神にも好まれたのである。商(殷)の時代には祭りの際に酒が重要な役割を果たしたので、それに合わせて酒を入れる器も盛んに作られた。温酒器である「爵」、飲酒器である「觚」、盛酒器である「尊」など豊富な種類が出現した。
その酒器の名前ともなった「尊」という字の中に酉があることに気づかれただろうか。古代文字を見ると、この字は酒壺を両手で高く掲げている字である。うやうやしく酒壺を両手でささげて神前に置く姿である。「尊」の字が神様に酒を捧げるところから「とうとい、とうとぶ、たっとぶ」などの意味となった。尊の字を使った樽は木でできた酒樽。松尾大社の酒壺のように土器の甕でできた酒器は罇と書く。缶は土器のことをいう。
「配」の字の中にも酉がある。旁の己の部分は古代文字では人がひざまずいている姿である。酒を入れた器の前に人がひざまずく形で、ひざまずく人に酒の器をわりあててくばることをいう。のち配布・配分のように、広くものを「くばる わりあてる」意味に用いる。酒を配る字は支配の「配」にもなる。酒を神に捧げて「したがえる」こともあったのであろう。酒樽を捧げてあちこち出向き、酒を供えて祭りを行う。その祭りに従わせることを「遵」という。遵守の遵である。
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