文・甲骨  公・金文

今回初めて東京三軒茶屋のキャロットタワー26階にある、エフエム世田谷のサテライトスタジオに行ってきました。天気がよく26階のレストランからの東京の眺め・・・素晴らしかったです。

昨年の五月の初めに、京都で岸田君と何年かぶりに出会ったことがきっかけで、思いがけなくもラジオで漢字の成り立ちの話をすることになりました。始めは冗談かと思っていました。まさか、本当に実現するなんて夢にも考えていなかったのです。それが、気がつけば1年になろうとしています。毎回、皆様のお役に立っているのか心もとない限りですが、今回はずうずうしくスタジオにまで来てしまったのですから、本当に自分でもびっくりです。

古い漢字の形を直に目で見ていただくことができないので、ラジオで漢字の成り立ちの話をするのは難しいです。見ていただければすぐにわかることでも、口で説明するだけでは伝わりにくいことが多くて毎回ちゃんと伝えられたか心配になります。でも、逆に耳だけで理解できるように話ができたらどこへ行ってもちゃんと伝えられる気がして、そのための修行を毎回ラジオでさせていただいているのだと思うと多少気が楽になりました。

古い漢字の成り立ちを知って何になるのかと思われている方もいるかと思いますが、中国のことわざに「字里人生」という言葉があるそうです。

漢字の中に人生がある。

一つの漢字には、その漢字を生み出した人々の思いや願い、生き方というものが込められています。白川静先生は「漢字の字源を探るのは楽しいことだ。どんな思いでこの漢字は生まれたのか、その素性を漢字自体が語りたがっているからだ」とおっしゃっています。漢字の成り立ちを知ることは、漢字に命を吹き込むことでもあるのです。どの字にも愛着を持って使ってほしい。それが作ってくれた古代の人びとへの恩返しです。漢字を日常の言葉として使う私たちだからこそ、大切にしたい、そう思うのです。

漢字の一番身近なかかわりは自分の名前です。名は体を表すことがあるのですね。

 

実は私は双子なのです。私は文男。弟は公男。父は中国の春秋時代(紀元前七世紀)の名君として名高い晋の国の文公《本名・重耳(ちょうじ)》から名前を取ったのだそうです。

私は文、学校の国語の教員となりました。弟は、銀行員になりました。公の仕事といってもいいかもしれません。もう二人とも若くはない年齢ですが、振り返ると名前にちなむ人生を歩んできたように思います。名前に込められた意味を無意識のうちに探りながら、歩んでいたのかもしれません。「運命」とは「自分に引きつける力」という気がしてきます。

「名前」は人生の最初の道しるべ。まずは自分の名前のルーツから探ってみるのも漢字に愛着を持つ第一歩かもしれません。

以上がスタジオで話ができればと思っていたことです。当日は雑談風になってしまいましたが、これからも、楽しみに待っていただけるコーナーになるよう努力していきたいと思っています。岸田君・光部さんこれからもよろしくお願いします。

放送日:2015年5月4日

古代文字

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