吉・甲骨

今回も神様への願い事を入れた器= 口・篆文(口・さい)にまつわる漢字です。

神様に器を捧げてお願いごとをすれば、当然その願いの効力が長く続くよう大切な器を守ることを考えます。器が傷つけられたり、勝手に開けられては願い事の効力も消えてしまうと考えられたからです。

ですから、器のふたが勝手に開けられないよう上から「お守りの道具」を置いて、この 口・篆文(さい)を守りました。今回紹介するのは、口・篆文(さい)の上にお守りの道具が乗っている漢字です。それは何という漢字でしょうか。

吉・甲骨(甲骨・3300年前) 吉・金文(金文・3000年前)

そこで、先に掲げた古代文字(左)を見てください。口・篆文(さい)の上に乗っている物は、先のとがった槍のようにも見えます。

もう少し時代が下った金文(右)も見てください。この字を見ると、これは槍ではなく武器として使われた(まさかり)の刃の部分を表しています。戦いの武器は、弓矢の「矢」と同じように邪悪な物をはらう神聖な力があると考えられていました。この場合、口・篆文(さい)の上にのせる鉞は本物ではなく儀式用の鉞でしたが、口・篆文(さい)の上に乗せて邪悪な物の侵入を防ぐお守りとしたのです。

これで、願い事の効力は安全・確実に守られ続けることになるので、それはめでたいこと、それは喜ばしいことというので、「吉」という字になりました。

「吉」に器を守る力があることから、糸と糸をむすんだむすび目に力をこめて解けないように守っている字が「結」です。結ぶという字に吉があるのは、結んだ結び目が解けないよう祈りの力が込められているからです。「結婚式」とはまさに男女の仲が解けないよう強いパワーを込める儀式でもあるのです。

結・篆文(篆文・2200年前)

さて、鉞のほかにも(さい)を守る道具がありました。それが、(ほこ)(たて)の「盾」です。盾も防御用の武器です。

甲骨文字を見ると 古・甲骨(甲骨・3300年前)。やがて、古・篆文(篆文・2200年前)。1000年以上経つとこんなにスリムになります。

これは古いの「古」になります。盾に守られた  口・篆文(さい)はいつまでも効力を失いません。効力が長く続くことになるので、時間の経過を示す「ふるい」という意味となりました。

では、長く守り続けるという本来の意味はどうなったでしょうか。
「古」をさらに四角いもので囲み、絶対傷つけられないようにしました。それが「固い」の「固」という字です。これで強固な守りとなるのです。

固・篆文(篆文・2200年前)

「固」という字に「古=盾をのせた 口・篆文(さい)」があるのは、願い事を入れた器を「強固」に守り続けることを表していたからです。

今回は、口・篆文(さい)を守るために生まれた字を紹介しました。しかし、大切な物を守るための字がある一方で、それを壊しにかかる字もあるのです。口・篆文(さい)を傷つけ、力を無効にしてしまう、よからぬ字とは何でしょうか。次回は、それらの字を取り上げます。

放送日:2015年6月29日

 

今回のおまけ

吉という字の口の上にある「士」は小さな儀礼用の鉞を表します。大きくて立派な権力の象徴となる鉞は、王様の「王」という字になります。

小さい鉞の「士」は、戦士階級の身分を表す字となりました。それで、兵士や武士などに使われるようになりました。戦士階級の人びとは、王様につかえる人々なので、「にんべん」に「士」と書いて「仕える」となりました。

王・金文(王/金文3000年前)
士・金文(士/金文3000年前)

 

口・篆文(さい)の字のお話は他にもあります。