清課堂外観

六月。激しいにわか雨が降った午後。まだかすかに雨が残る寺町通りを南に自転車を走らせると、この勢いのある篆書(てんしょ)体の看板に出合った。寺町二条の錫製品の制作・販売の「清課堂」である。

大きな暖簾に大きな硝子戸の陳列台、店の構えからも京都らしさを感じさせる。中に入って看板のことを聞く。店は江戸末期の創業で、店名は富岡鉄斎がつけたという。たしかに店内には鉄斎直筆の書も掲げられている。店名の由来を聞いたが、三十年ほど前に火事にあった際、文書などが焼けてわからなくなったとのこと。

清課堂看板

字の成り立ちからいうと、「清」は「さんずいへん」に「青」。「青」は丹青という青色の材料となる鉱物を取り出す形からできた字。旧字体は靑。井桁を組んで井戸を掘るように地中から鉱物を取り出すのである。青色のきよらかですずやかなイメージを水に見立てたのが「清」。「きよい」の意味を持つ。

「課」は「ごんべん」に「果」。果は木の上になる果実を表す。みかんのように細かく袋状に分かれた果実のイメージを田の形で表している。だから、課はあれこれ言いながら細かく分かれた単位で仕事をする場をさし、役所や会社でいう「~課」と使われる。

「清課」が清らかで涼しげ、そしていくつにも分かれた場を表すとしたら、この店で作られる茶筒・食器・花器・煙管(きせる)・根付等その多様に分かれた錫製品の小部屋の数々をこの名前に込めたといってもいいかもしれない。

明末の中国の書物『居家必備』は、家庭で子どもに学ばせるべき大切な教養を著名な書物のダイジェスト版を通して解説した本である。八つの科目に分けられたその中に「清課」という科目がある。おもに軸物のかけ方や道具類の配置、紙・(すずり)・筆・書・諸器などについての基礎知識を得る科目となっている。そうした教養を積んだ人のお目にかなう製品を作っている店、それが「清課堂」である。中国の書物に精通していた富岡鉄斎のそんな思いからであったかもしれない。

いずれにせよ、店内の錫製品を眺めていると、丁寧な仕事から生み出される本物の品の良さ、その作品のひとつひとつに清らかなまなざしを感じる。その本物の技の結晶こそ「清課」なのである。その静謐さと表の看板のにぎやかな書体とが不思議に同居している。

古代文字

青・金文(青・金文)

清・篆文(清・篆文)

課・篆文(課・篆文)

堂・金文(堂・金文)

参考

  • 「課」「果」の成り立ちについて詳しい記事はこちら

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