「弥生」の月に入りました。旧暦3月を示す「弥生」は、「弥や生ひ茂る月」=「いよいよ草木が芽吹く月」の略だと言われています。
たしかに街中でも新たな芽吹きが感じられるようになりました。「春」という字が、暖かなお日様に誘われるように新しい芽が土の中からでてくる様子を表す字だったように、「弥生」の「生」という字も新たな草の芽が地面から出てくる様子からできた字です。
(生/金文3000年前)→ (生/篆文2200年前)
「生」の古代文字(金文)には地面から出てきた茎の途中に膨らみがあります。新たな芽が出てきたことを示しています。このふくらみが横に広がって、八百年後の篆文では一本の横線になり、現在の字に近くなっています。
(産/金文3000年前) (姓/甲骨3300年前)
漢字を生み出した古代中国の人々は、草や木の芽が新しく生えてくる様子を「生まれる」ことのおおもとの字の形としたのでした。ですから、赤ちゃんが生まれるという時の「産」という字の中にも「生」が入っています。昔々は女系の血縁集団を中心にして新しい命が受け継がれていったので、自分の苗字を表す「姓」という字も「女へんに生」と書きます。
(性/篆文2200年前)
また、毎年同じ季節に草木の芽が自然にでてくるように、人が心のうちに自然にそなえている性質のことを「忄(りっしんべん)に生」と書いて「性」という字で表します。「本性」とか「性格」と言います。
(世/金文3000年前)
木の枝に新しい芽が出てくることを表した字もあります。古い文字を見た方が分かりやすいのですが、「世の中」の「世」、「世代」というときの「世」です。古代文字は分かれた三本の木の枝に新しい芽が出てくる様子が短い横線で描かれています。今の字でも、横棒の上に突き出た三本の縦棒が三本の枝の名残りとしてあります。毎年新しい芽がでて、新しい枝になっていくので、「世代」というときの「世」になりました。
(葉/金文3000年前)
その新しい木の枝に芽が出て、「はっぱ」がでてくると「葉」という字になります。「葉」の中に「世」と「木」がありますね。「世」と「木」が重なると「葉」という字になり、「葉っぱ」のように薄くてひらひらするものを表します。それで、「ひらひらと飛ぶ虫」が「ちょうちょ」。「虫へん」を書いて「蝶」と書きます。さらに、「葉っぱ」のように軽くぺらぺらと話すことを、「口へん」をつけて「喋る」といいます。
(未/金文3000年前) (末/篆文2200年前)
さて、木の枝葉が茂って、枝の先がこれからさらにのびていこうとする字もあります。それが未来の「未」、まだまだこれから伸びていこうとしているのです。「未」は二つの横線の下の線が長い字。二本の横線の上側の横線が長い字を「末」といいます。木の上に丸い点をつけて「枝のすえ、末端はここだよ」と示している字です。
3月弥生は本当に自然の風景が一変します。木々に新しい息吹が吹き込まれ、気づかないうちにいろいろな草木が芽を出しています。本当に「春が来たな」と実感されます。古代中国の人々も自然の変化にいち早く気づき、様々な漢字を作ってくれました。
放送日:2016年3月7日
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