又・篆文

今回は「手」の変身というテーマで話をしようと思います。「手」は体の中でも身近なパーツとして広く漢字に使われていますが、様々な形で紛れ込んでいるため「手」があることに気づかない漢字も多くあります。

手・篆文

手/篆文2200年前

そもそも「手」という漢字の古代文字は「五本の指を広げた形」(かたど)った象形の文字です。その「手」の形が左によって「てへん」と呼ばれる部首になると「 てへん 」のように形を変えます。

右・篆文

右/篆文2200年前

左・金文

左/金文3000年前

「右」とか「左」という字の中にも「手」があります。両方の字にある 右手パーツ(右手)と 左手パーツ(左手)のところが「手」を表すパーツです。古い文字は、少し曲がったフォークのような形で、三本の指と真ん中から腕が伸びた形をしています。その形が、長い間に「右パーツ」に変身して、一見すると「手」のパーツであることが分からなくなっています。

祭・篆文

祭/篆文2200年前

以前取り上げた「祭」という字の中にも「手」がありました。どの部分かというと「祭」という字の右上のパーツ、少し変形していますが「又」という形をしているところです。古い文字を見ると「右」という字にある手の形と同じ形をしています。「又」という部分も手の形を表すパーツでした。たしかに、「祭」という字の成り立ちは、お供え物を置く台の上に神さまの大好きなお肉を右手で置こうとしている様子から生まれた字でした。

古い文字では物をつかむ時の手は五本ではなく三本の線で表されていました。鉛筆を持つ時の手の形を思い出してください。親指から人差し指まででしっかりつかみ、残りの薬指と小指は軽く添えているだけです。古代の中国の人々は物をつかむときの手の機能は三本の指が中心であることをちゃんとわかっていて、三本の指を広げ、その真ん中の人差し指から緩やかなカーブを描いて腕がでている形で表しました。「右」と「祭」の「手」の形は古い時代には同じ形をしていたのに、一方は「右パーツ 」、一方は「又」というパーツに変身したのでした。

又・篆文

又/篆文2200年前

友・篆文

友/篆文2200年前

ということで、「又」というパーツを持つ漢字は、手を表す字となりました。その「又」と右手の「右パーツ 」が組み合わされると「友」です。古い文字を見ると手が二つ縦に並んでいます。右手と右手を重ねているのです。手を重ねて声を掛け合っているバレー選手のように、手を重ねることで仲の良い「友」であることを示しています。

取・甲骨

取/甲骨3300年前

取るという字の「取」にも「又」があります。手で耳を切り取るということでした。古い時代、いくさでの手柄とするために討ち取った敵の耳を切って持って帰る習慣がありました。まさに耳を手で切り取ることから「とる」という字は生まれました。一番多く耳を取った人が「最高」の「最」という字でした。

受・金文

受/金文3000年前

他に「受ける」という時の「受」があります。「つめかんむりのあるパーツ」と「又」との組み合わせです。「つめかんむり」も「爪」の形で「手」を表します。この字も手が上下に並んでいる形です。受の古い文字を見ると、手と手の間に何かがあります。それは物を入れる「受パーツ(盤)」です。盤の中に入れたものを、上の手は与え、下の手は受ける形になっています。上の手から見れば「さずける」、下の手から見れば「うける」という意味になります。古くは「さずける」「うける」両方の意味で使われていましたが、「さずける」に「手へん」を付けた「授」が作られたので、「受」は「うける」の意味にのみ使うようになりました。

及・金文

及/金文3000年前

他にも意外な字に「又」は使われています。例えば、及ぶという字の「及」です。少し変形していますが、もとは「又」です。人の後ろから手でタッチする形です。人に追いついた形なので「及ぶ」、たどりつくという意味の字になりました。

手を表すパーツはなかなかの曲者で、変身して漢字の中に紛れ込んでいるため分かりにくくなっています。それを発見するのも古代文字を学ぶ楽しみでもあります。「手」の形の変身パターンはまだ他にもありますからこれからも取り上げてみようと思います。

放送日:2016年4月25日