今年、コロナに隠れて話題に上ることが少ないですが、アフリカから中東、インド、中国にかけて、「サバクトビバッタやトノサマバッタ」が大量発生し、穀物を食い荒らす大きな被害をもたらしています。いったん襲われると小さな集団でも一日3万5千人分の食物を食べつくすという凄まじさです。
はるか昔、古代中国の人々もこのバッタによる被害を受けていました。今でさえ、手がつけられないほどすごいのですから、3000年以上前の人々にとってはなすすべもありませんでした。しかし、ことは食べ物に関わることです。食い荒らされれば餓死するしかありませんから、襲ってこないことを必死で祈ったに違いありません。中国では「蝗害」と呼ばれ、「水害」、「旱魃」とともに古くから三大災害の一つに数えられていました。
秋/甲骨3300年前 |
秋/篆文2200年前 |
その「バッタ」の猛威を示す字が、上記左側の甲骨(3300年前)の文字です。二本の触覚を持つバッタのような虫がいます。しかし、よく見ると、その虫の下に「山」のような形( )のパーツがあります。これは何か。この字から1000年以上経った同じ漢字によって推測できます。それは、「火」です。(ちなみに、この1000年以上経った字には穀物を表わす「禾(のぎへん)」と「亀」のような形のパーツがあります。1000年も経つと「バッタ」は「亀」の形に代わってしまいました。そして「穐」という字になります。)
古代中国の人々は、バッタが襲ってくるかもしれない予兆を察したら、早くやってきたバッタを捕まえて、「火」で焼くおまじない(儀式)をしました。おそらく、やってきたら、こんな恐ろしい目に遭うぞと脅しをかけるつもりで・・・。それが精一杯の抵抗だったのです。穀物を収穫する時期に襲来されたらたまりません。それで、穀物を収穫する前にこのおまじない(儀式)を行ったのです。それが「秋」という字の始まりです。現在の字には、肝心のバッタはいなくなり、穀物を表わす「禾(のぎへん)」と「火」だけが残りました。
栗/甲骨3300年前 |
さて、「秋」といえば、どんな食べ物(果物)を浮かべるでしょうか。
秋を代表する食べ物(果物)はたくさんありますが、古代文字の中で異彩を放つのが「栗」の字です。関西では「丹波栗」が有名ですが、栗は3300年以上前からありました。古代文字(甲骨)には、木の上に針のようなイガをつけた実が三つなっています。同じイガが三つありますから、古代文字の約束で、数えきれないくらい多い数がなっています。無数のイガをつけた栗が、古代の秋の空のもとで実っている風景を浮かべると、どんな味だったのか、どんなふうに食べていたのか、想像がふくらみます。
青/金文3000年前 |
青/篆文2200年前 |
最後、「秋」と言えば、やはり澄み切った青空のイメージでしょうか。
「青」という字は「生」と「丹」との組み合わせです。下部の「丹」は、井桁(木で井の形に組んだ井戸のふち)から鉱物(鉱石)を取り出すことを表わした字です。上部の「生」は、字の音を表わすとともに、草の生え出る色が取り出された鉱物に近い色だったことから用いられたと考えられています。
ということで、「青」は、井戸から掘りだされた鉱物(鉱石)の色から「あお、あおい」の意味となりました。「丹」からはいろいろな鉱物が取り出され、色によって「赤丹」とか「青丹」と言い、絵の具の材料(顔料)として用いられました。この絵の具は変色せず、虫がつかなかったことから器や柱などに塗って、ものを清めることに用いました。
この採取された鉱物の青い色が、透き通った色合いを表わす空の色合いと重なり「青空」となり、そして、真っ青な空の美しい日和を「晴」と呼ぶようになりました。さらに、水の透き通った青い色合いを「清」というようになり、その清らかな美しさから神に供える透き通るような美しいお米を選ぶことを「精米」といいました。春先、農具に「青丹」を塗って収穫まで虫がつかないようおまじないをした字が、「静」の字になりました。このおまじないで心静かに収穫が待てるからです。
空/篆文2200年前 |
虹/篆文2200年前 |
透き通るような青い空のもとで、天を仰いでみてください。弧を描くような真っ青な空の底に自分がいるような気がするはずです。古代の人々も空をそのように感じていました。「空」という字にある「 (あなかんむり)」は、穴の底。「工」は円弧(半円形)を表わす字です。穴の底から円弧を描く天を仰ぐと見えるのが「空」です。
弧を描くと言えば「にじ」もそうです。「虹」にも「工」があります。大きな虫(ヘビ)=龍が、弧を描いて黄河の水を飲みに来る姿が「虹」でした。
今年の秋が穏やかな季節でありますように。
放送日:2020年10月9日
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