酒・金文

今週放送の「アフタヌーンパラダイス」の御題をチェックしたら「私はお酒をあいしゅ♡」なるテーマでした。
酒にまつわる話なら、三千年以上前に漢字を生み出した「(いん)」の国の人々も負けてはいません。なにせ、酒で国を滅ぼしたとの言い伝えもあるほどですから。

もちろん、人々が酒好きだったというよりも、祭祀(さいし)に多くの酒が使われたことが原因の一つでした。殷の祭祀はほぼ毎日行われていました。毎日行われる祭祀の多さが殷の財政を次第に圧迫していったといわれています。当時は「祭政一致」ですから仕方ありませんが・・・。

酒・甲骨(酒・甲骨)  酒・金文(酒・金文)

そもそも「酒」という字の右側の「(ゆう)」という字は「酒を入れるつぼ(たる)の形」をしています。今の字は角ばっていますが、古代文字は丸みを帯びたつぼの形です。右側の「酉」だけでも「さけ」を表しましたが、飲めば心地よくさせてくれる水=「氵」をつけて今の「酒」という字もできました。後、「酉」は干支の「とり」という字に使われたので、「さけ」はもっぱら「酒」と書くようになりました。

配・甲骨1   配・甲骨2(配・甲骨)

酒つぼの前に人がひざまずいている字があります。それが、配るの「配」です。古い文字を見ると、「」の部分は人がひざまずいている姿をしています。酒つぼの前でひざまずいて、「振る舞い酒」を待つ人の姿です。祭りの後、神様にお供えした酒や肉は、神様からのおすそ分けとして人々に分け与えられました。ですから、それぞれの人に「くばる、わりあてる」の意味となりました。

尊・甲骨 (尊・甲骨)

酒つぼを両手で持って神様に供える字もあります。神様に供えるのですから、うやうやしく酒つぼを捧げます。それが、尊敬の「尊」です。尊は、上に「てんてん」がついていますが、その下にたしかに「(ゆう)」があります(酋という字です)。その「てんてん」は、酒からいい香りが立ち上がることを表しています。神様に捧げる酒は、「香草」でいい香りがつけられていたそうです。ちなみに、尊の下部、「寸」は「手」を表しています。尊敬の「尊」は神様に酒つぼをうやうやしく両手で捧げる姿からできた字でした。

 

ふく・金文 (ふく・明朝・金文)

さて、酒つぼの形を表す字が「酉」の他にもう一つあります。それが、幸福の「福」、福井県の「福」の右側((つくり))「ふく・明朝(ふく)」です。「ふく・明朝」も今は角ばった字ですが、古い文字は下側がふっくらとした丸い酒つぼ(酒だる)の形をしている字です。

福・金文(福・金文)

酒つぼの下側がふっくらとしていることから、満ち足りた状態、幸せな状態をいう字となりました。その「ふく・明朝」に神様へのお供え物を置く台を表す「示(ネ)」をつけた「福」は、神様に酒つぼを供えて祭り、幸い(福)を求めることをいう字でした。

富・金文(富・金文)

満ち足りた状態は、人がものを豊富に持っていることを表し、豊かという意味の「富む」=「富」という字にもなりました。「宀」は祖先を祭る建物((びょう))の屋根、建物の中に酒つぼが豊富に供えられていることを示すのがもとの意味でした。

酒は適度でありさえすれば、人を心地よくさせます。古代の人々も酒のふくよかな香りをかぎ、幸せな気分になることもあったでしょう。

三千年前の人びとの姿を映した『詩経』という中国最古の詩集の中に「酒を飲むもはなはだ()し。これそれ令儀あれ」(「小賀」)という詩句が出てきます。「(宴席で)酒を飲むのはとても楽しいものだ。が、やはり節度はほしいよね」という意味です。こんな詩句があるということは、三千年も前の人びとの中にも酒を飲んで「羽目を外す人」はいたんですね。

今も昔も変わりはないですが、周りに心配をかけないよう、くれぐれも節度をお忘れなく。

放送日:2015年8月24日

参考